食べ物と私

食べます。

朝食ひとつ、ダブルソフト

小さい頃から食パンが好きだった。基本的に無味な食べ物が好きだったから。

私自身は憶えていないが、スーパーで母親が「好きなパン買っておいで」と私に声を掛けた時、幼い私は食パン一斤を手に戻ってきたらしい。

量より質というわけではなく、私にとっては多分量も質も良かったのだろう。

 

そんな私の朝は決まってパンである。

ただでさえ学校が好きでなかった小学校の時は、朝食がご飯の時はちょっと不機嫌になっていたように記憶している。

その日の始まりである朝食は私にとって結構大事なのだ。

 

そしてそんな大事な朝食の食パン。

出来れば上物を使った方がいいのだろうが、私が普段食べているのはスーパーで一番安い、100円に満たない食パンである。

 

しかし、気まぐれなスーパー。有名な食パンたちが時折108円という価格に落ち着いてくれることがある。

そんな時、私は迷わず『ダブルソフト』を買う。

 

数ある食パンの中でも、私は特にダブルソフトが好きだった。

一枚一枚がぶ厚くて、へこんだ頭がおちゃめな食パン。私が食べる普段の食パンの二枚分が一枚の厚さと言っても過言ではないだろう。

耳も驚くほどふわふわで、潰さないよう慎重に持ち帰るのがちょっと大変だったりする。繊細な子だ。

 

ダブルソフトはどう調理してもダブルソフトである。

ただバターを塗って焼くだけでも特別感があるし、いつもの目玉焼きもいい。シンプルにチーズだけをのっけるのもアリだ。ふわふわだから、きっとフレンチトーストにしても二百点だろう。

例え他が同じメンツでも、食パンがダブルソフトというだけでいつもの食事とは全然違うのだ。

 

ダブルソフトでこうなのだ。きっとパン屋さんの、自分で切るタイプの食パンなんかが手に入った日には、そこから数日間私は有頂天になってしまうのだろう。

いつかパン屋さんの食パンで迎える朝も経験してみたいと心から思う。

 

今は目の前のダブルソフトと対話しつつ、少し迷ってから、焼く前にバターを塗った。

一人暮らし男子大学生の部屋にひょんなことからやくざ二人が住み着く料理漫画(字面がすごい)で、焼く前のトーストにバターを塗っていたのが印象的だった。

その漫画では焼いた後もバターを塗っていたが、私は隣に昨日のシチューを置く。これでダブルヒロインだ。

そろそろ出番を失くす頃合いのアイスコーヒーを添えたら。もう完璧な朝食だった。

 

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頑張る日、何もない日、ドタキャンされた日、眠れなかった日。

どんな日でも朝食を取ることは大事だ。

だって朝食ひとつで、きっとその日はちょっとだけ愉快になったりするのだから。

 

今日は何もない日。

ぼんやりと一日のやること達をなぞりながら、口いっぱいの幸福に束の間溺れるのだった。