食べ物と私

食べます。

独りになりたい甘辛チキン

漬け込んだ肉を雪のような粉にくぐらせる。

片栗粉はこれでお終いだ。次にスーパーへ行く時は忘れないようにしなければ。

 

少量、とは言えいつもの料理より多くの油をしいて鶏たちを揚焼きにする。

鶏の、この部位は何というのだろう。長いこと分からないままだ。

骨付きの、小さな手羽先のような部分。

お弁当に入っていると嬉しい反面、少しの食べづらさに苛まれた。

 

かなり涼しくなってきたキッチンで油の爆ぜる音を聞く。

これは私の料理であるのだが、8割私のためじゃない。

 

何となく億劫だった。食べることへのワクワク感が薄れてしまっている。

多分、ちょっと疲れているんだろうと思う。ただの独りよがりだ。

誰かのため作る料理より、私は私のためだけに作る料理が好きなようだった。

 

人といると、色んなことをよく考える。

今目の前の人が何を想っているのか、それに対して私はどう返すべきか。

負担感はどれくらいか。平等感はそこにあるか。相手の楽しいと私の楽しいはどれくらい近いのか。私は何を施して、何を返されたのか。借りっぱなしのものはないか。

巡る思考は他者に触発されているだけで、結局いつも自分についてだ。

 

こうしたいんだろうな、こうしてほしいんだろうな、私はしなきゃダメなのかな。

 

失礼だなぁと、我ながらそう思う。狡いのだ。私がこんなことを考えている事すら、相手は知らないというのに。

それでも馬鹿馬鹿しいし、正直面倒だった。反響している私も。

つたない私は、どうやら私のことで手一杯らしい。

 

肉に火が通ったところで漬け汁をフライパンに流し込む。

思いの外温度が高かったのか、ジュアっと音を立て一気に蒸発して少し焦る。

本当はじっくりタレを絡ませたかったが、あっけなく、あっという間に出来上がってしまった。

 

適当に皿に盛って出来立てのそれをひとつ齧る。

案の定タレを煮詰めすぎたのか味が濃い。私好みじゃないけど、きっとあの人好みではあるのだろう。

ぼんやりそう思って、物足りなくなった。酷く退屈な味だ。

 

いつか私が愛で料理をする日は来るのだろうか。いや、最初は割とそうだっただろうか?正直あまり憶えていない。けど。

 

……あんまり要らないかもな。少なくとも、今は。

 

結局鶏には二本で飽きてしまい、早々にラップをかけてしまう。

料理は冷めるごとに旬を逃し、刻一刻と不味くなる。もう一回温めればいいとかそういう問題ではないから不思議だ。

目の前で美味しさが抜けていくのを、ただ見ている。この時間はもう一体何度目だろう。

 

それでも億劫で、今日も私は声を出さないでいる。

 

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