食べ物と私

食べます。

眠れぬ夜にオイルサーディン

何となく眠れない夜だった。

体を休めようとも脳が起きてしまっている感じがある。幸い次の日は休みだ。こんな日、私は無理して寝ないことにしている。

 

二時間前に消した電気をつけ、キッチンへと向かう。夜更かしはお腹が空くのだ。

 

寝ることをちゃんと諦められるようになったのは、大学に入ってからだった。

 

そもそも私は寝付きが悪い。次の日に何か用事、それも嫌な用事や大事な用事が入っている時なんか大抵眠れない。

昔、毎日学校がある時は「寝なければ」という義務感に駆られ、結局寝不足のまま学校に行くなんてこともあった。

 

しかし一人暮らしを始めて夜の時間すら私のフィールドになってから、私はすっかり開き直ってしまった。

 

どうせ眠れないならちょっと映画でも見ようか。本でも読もうか。お菓子づくりもいいかもしれない。

人間一日寝なかったくらいでは死なない。それでもきっといつか眠たくなるから、その時に眠ればいい。

 

それに、頭が回る夜に空腹であれば尚更眠れないことを、私はよく知っていた。

 

本当はカップ麺なんてジャンクなものが食べたかったのだが生憎切らせていたので、缶詰をひとつ、手に取る。

 

オイルサーディン。食べたことはないが、これまた何かの漫画で読んだ記憶のある食べ物だ。

その主人公は、期限切れのオイルサーディンの缶詰を探していた。何やらそっちの方が美味しいらしい。

 

適当にレシピを検索して、真夜中の気力でも作れそうなものを探す。

結果、チーズを乗っけて温めるだけという、おおよそ料理と呼べないようなレシピに落ち着いた。

 

ラップをかけるのが面倒で怠ったら、電子レンジの中で小爆発を起こした。まだ十分にあったまっていないが、さっさと引き上げてしまう。

そこに久しぶりに買った檸檬堂を添えれば、真夜中の禁忌、完成である。

 

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面倒なので、キッチンでそのまま食べることにした。こんな横着だって、私一人だから許される特権である。

 

箸を口に運べば、空腹に鰯の塩気が染みていく。

どうやらオイルサーディンも私の苦手な味ではないようだ。まあ、もとより心配もしていなかっだが。

 

塩辛さにチーズが相まり、お酒も進む。

度数の高さに少し愉快な気分になりつつ、私は夜のキッチンで束の間の非日常感を味わった。

 

満たされたお腹と、アルコールに浮かされた頭。

ぽわぽわと暖かくなってきた体は、もう横になりたがっていた。

 

朝に残骸を片付けるのは嫌だった。

最小限の洗い物をした後、諸々の準備を済ませ、私はまたベッドへ戻る。

 

もう動かなくなった頭で、どうやら今日は短期戦だったみたいだな、とぼんやり考えた。