食べ物と私

食べます。

私を満たしてはちみつトースト

起きると、部屋が暗い。空が曇っていた。

最早恒例となりつつあるような気もするが、今日も今日とて死ぬほど行きたくない朝だ。

 

ため息をつきながら湿度の高いキッチンに立ち、トースターを温める。もう一度、ため息。

最悪な日ほど天気すら悪いのは、一体どういうことなのか。

 

しっかり頭を働かせなければならない日。

バランスの苦手な私はとりあえず心を封印せざるを得ない。憂鬱この上ない。

 

頭を動かすにはブドウ糖が必要らしい。そして脳のために最も効率的な食べ物はラムネ菓子なのだと。

確かにラムネは好きだ。どちらかというと噛み応えのある、硬めの触感のラムネが。

ラムネが砂糖の塊だと言われれば、なるほど、という感じもする。

 

しかし、あれが甘さかと言われると、私は首をひねってしまう。

ものたりないのだ。金平糖や飴なんかもそうかもしれない。

 

チョコレート、ドーナツ、生クリーム、ケーキ。

とろけるような、それでいてガツンとしつこい味。

甘さを求めている時にはそういうものが食べたくなる。ラムネじゃとうてい満足できないのだ。

 

私が生きていくためには、もっとどろどろした甘さが必須だった。

 

ピー、という電子音に促され、トースターに準備した食パンをセットする。

朝から果てしないカロリー爆弾だ。なぜなら放り込んだ食パンにはマーガリンが塗られ、さらにチーズも敷かれてしまっているのだから。

 

しかし、今日の私はこんなものでは終わらない。

私の憂鬱はこんなもんじゃ晴れない。

 

四苦八苦して開けた、瓶のはちみつ。

スプーンでこぼれないようにすくい上げ、焼き上がったチーズトーストの上に、とろりとまとわせる。

 

幸せ満点、チーズはちみつトーストの完成だ。

 

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はちみつをこぼさないように、一口。

チーズとマーガリンのしょっぱさを包み込むように、あまいあまい幸せが私の心を満たしていく。パンだってこころなしか喜んでいるようで。

 

チーズはすごい。おかずにもデザートにもなってしまう。その汎用性を私にも少し分けてほしいくらいである。

そしてはちみつもすごい。たったスプーン一杯で、私をこんなにも幸せにしてくれるのだから。

 

この二つと助っ人のマーガリンまでそろえば、今日の私に怖いものはない……はずだ。

 

お皿を洗い、後片付けをしているうちに、徐々に現実へと気持ちをシフトさせていく。まるで儀式だ。

 

時間になり、玄関の扉に手をかける。

ちょっとの間、幸せとはお別れだ。

心と気持ちは少しの間この部屋に置いて行って、またこの扉を開く時、私は私に戻るから。

 

一日過ごしたご褒美に、また甘いものを買って帰ろうと決意しつつ、私は部屋の鍵を閉めた。