私の祖父と祖母は農家だ。
そのおかげで一人暮らしの私の家には事あるごとに様々な野菜たちが送られてくる。ありがたい。
ところで、祖母はよく梅を漬けていた。
梅干しはもちろん、梅シロップ、梅酒。
らっきょうも作っていたと思う。カレーに添えて食べるのがとても好きだった。
だが、祖母がぬか漬けを作っているところを私は見たことがない。
なのに。いや、だからこそと言うべきか。
私はぬか漬けに憧れている。
キャベツを千切りにしながら、厚い芯の部分だけ取り除いていく。
二分の一カットのキャベツは断面を下にして、上と下を半分に切り分ける。こうすれば上の方には芯が無くなり、千切りしやすくなる。
YouTuberの『谷やん』さんが言っていた。気がする。
今扱っているのは残りの下半分。
そのまま全部千切りにしてしまってもいいのだが、せっかくなので芯は芯の良さを活かして美味しく頂きたい。
取り除いた芯たちをポリ袋に入れ、夏の名残、浅漬けの素を投入。鷹の爪は家にないので、代わりに一味を少々。
これでしばらく寝かせれば、簡単なキャベツのお漬物の完成である。
冷蔵庫の中で、タッパーで。
ぬか漬けが気軽に作れることは知っているのだ。ぬかだって、無印で買えると分かっている。
それでも私は未だ、ぬか漬けに手を出せていない。
素敵なことだと思うのだ。
毎日自分の手でお世話して、日が経つごとに味が染みていって、好きな時に食べられるなんて。
時代は進化して、きゅうりやナスも今はいつだってスーパーに並んでいる。
買えないこともないのだけれど、やっぱり旬の美味しさを閉じ込めておくことには特別感があると、私は思うのだ。
冷蔵庫に浅漬けの素をしまいながら、駄目だなぁと笑ってみる。
待てど暮らせどぬかは現れないのに、毎年毎年、この浅漬けの素だけが冷蔵庫でひっそりと息をする。
どうしたって何かを始めるには、私の腰は重すぎるのだ。
夕飯の時間が過ぎ、真夜中。
少しお腹が空いてきたのと、お酒を飲みたくなってきたので、冷蔵庫からいつものハイボールと、ちょっと漬け過ぎたキャベツの芯たちを取り出す。
夜の時間。涼しい時間だ。
少ししんなりとした、それでも噛みごたえのあるキャベツがしゃくしゃくといい音を鳴らす。
染み出す出汁の旨味。ちょっとしょっぱく、そしてほのかに辛かった。
お酒の進む味だ。
いつかこの食卓に並ぶかもしれないぬか漬けを想像して、想像できなくて、なんとも言えない気持ちになる。
来年、気が向いたらね。
なんて全く当てにならないことを思いながら、おばあちゃん元気かな、とちょっと地元が恋しくなるのだった。