朝、起きて、布団がやけに暖かかった。
いや、違う。部屋が寒すぎるのだ。
のそのそと起き上がるも、ベッドから降りるのをちょっとためらってしまう。
本当に寒い。いきなりどうしたというのだろう。
とりあえずいつもの机についてみるが、パソコンも冷え切ってしまっている。
その冷たさが寝起きの体に伝わってしまい、みるみるうちに指先が上手く動かなくなってしまった。
仕方ない。まずはこの寒さをどうにかするのが先決だ。
数年前に流行って、それからずっと使っている着る毛布を引っ張り出して、私はヤカンを火にかけた。
こんな朝は絵本、『バムとケロ』を思い出す。
買ってもらった記憶はないのに、初期装備のように家にあった絵本。
ずっと大好きな絵本の一つだ。
その中でも、今日にピッタリなお話、『バムとケロのさむいあさ』。
鳥のカイちゃんが池に凍り付いているのを発見したバムとケロが、それを助け出すお話だ。
犬のバムは起きてすぐ鼻の頭に手を当てて、寒さを実感する。
その仕草がかわいらしくて、何となく印象に残っている。
お話もさることながら、『バムとケロ』は絵も魅力的だ。
ページの端から端まで楽しい絵で埋め尽くされていて、それをずっと眺めているのが好きだった。
これを描く時、とっても楽しいんだろうな、なんて思いながら、色々な仕掛けを見つけていた。
ちなみに私のお気に入りキャラクターはヤメピだ。
名前を忘れてしまい、今しがた検索して思い出したのだが。
どこかのお話でヤメピ自身が「ヤメピのすべて」というようなタイトルの本を読んでいたのが可愛かった。
そんな懐かしい、架空の記憶を引っ張りだしながら、ぐつぐつ沸いたお湯の火を止め、コーヒーを淹れる。
相変わらずコーヒーのドリップは上手くないし、絵本やアニメ、小説や漫画の中では寒さにはココアだと相場は決まっている。
何でも、コーヒーは体を冷やす作用があるとかないとか。
コーヒーの粉をくぐった湯気がふわりとキッチンに立ち込める。
温かく、いい香りの白い湯気。小さく息をつく。
私は味音痴だ。コーヒーはインスタントでも一向にかまわないし、何度も言うがコーヒーを淹れるのは上手くはない。甘さだってここにはない。
それでも静かに記憶が巡る、いい香りに包まれたこの時間は嫌いじゃなかった。
淹れ終わった三杯分のコーヒー。
熱々のそれをコップにつぎ、パソコンの側に持っていってから、一口。
ちょっと酸味の強い苦みが、すっと喉を抜けていく。なんだか気持ちが落ち着くような。
すがすがしい温かさ。健やかな朝だと、そう感じた。
まだ冷たい鼻を触りながら、気温とは裏腹にカーテンから差し込む柔らかな光を見て、今日は頑張ろうと、そう思うのだった。