地元とは異なる、広過ぎる駅。
何番出口から出たのか、今どこにいるのか。
駅に集合と言いつつ、互いの居場所が分からぬまま電話を繋ぐこと数分。
キャリーケースを携えた、久々に見る姿。
今日から数日、妹が私の家に泊まりに来るのだ。
ほぼ成人済みの私達に対し、安否確認のため追撃のメッセージを何度も飛ばしてくる母を二人そろって無視しつつ、人ごみの中を行く。
親不孝と言えばそうかもしれない。けど、正当と言えばそれもそうで。
前日の電話によるとまだ切符も買っていないということだったので、実質妹は弾丸の旅行となる。
暗くなった髪は、記憶の中よりもサラサラとしていた。
いつも私が実家に帰った時はかなり食べに食べている妹だ。
どうせ今回の旅行も食がメインなのだろうと構えていたのだが、どうやら少し様子が違ったようで。
何でも最近はあまり実家で食欲がわかないらしい。何となく分かる。
しっかりお昼時。
適当に近況を、きっと当たり障りのない程度に話合いながら、「ここはいってみよ」と、妹が言う。
駅の地下街、明らかに高級そうなビフテキ屋さん。
普段なら絶対に躊躇して入らないだろうその店に、それでも今日はお構いなしに入っていく。
色々と思うところはありつつも、お財布のバックアップだけはおんぶにだっこだ。
学生と言う身分に盛大に甘えておくとする。
食券を購入し店内に入ると、すでにグラスが用意されており、そばには緑茶の入ったピッチャー。
お水でないことからも普段入る店とは違う雰囲気が窺える。
またたわいもない会話を続けつつ、待つこと数分。
大きなお盆が二つ、運ばれてくる。
大変に失礼な話だが、店員さんが食べ方を説明してくれているにも関わらず、私達の目は机の上にくぎ付けだった。
とにかく、めちゃめちゃに美味しそうである。
最近上手く食べられていなかったという妹も、今にも食いつかんばかりに目を輝かせていた。
残り僅かの理性でお肉を写真に収めつつ、箸を割る。
卵黄を潰し、一口。
さっぱり、それでいて肉々しい食感。卵黄はチーズのように濃くなめらかで、甘辛いソースがさらに食欲をそそる。
一気に舞い込んでくる、幸福感。
本来お茶漬け用に使うお皿に、互いの定食を少し盛って、交換する。
部位がそれぞれ違うらしい。だがここだけの話、私にはよく分からなかったりした。妹も同じことを言っている。
締めのお茶漬けまでしっかりと楽しんで、妹のキャリーケースを引く。
「久々にこんなに食べた」
そう言いつつお腹を抱える妹は、先ほどよりどこか満たされたような表情を浮かべている。
私達の逃避行は、まだ始まったばかりだった。