妹との逃避行、最終日。
さすがに遊び過ぎた昨日、一昨日で体力は限界だったため、妹が前回、母と行ったらしい洋食屋さんに行くことに。
この三日間で、妹は母のことを傲慢な女だと、そう言った。
酷く仲が悪いわけではないと思う。家の状況を見ていないから分からないが。
ただ、妹のいうことは言い過ぎではあるが、もっともでもある。
私から言わせてみれば母は盲目的な人なのだ。何も気づけないでいるだけ。
それはきっと、当人にとっては幸せなことで。
地下街、お目当ての場所に到着。
この洋食屋さんの存在自体は知っていた。
しかし、いつもかなり並んでいたので、気になるまま、覗くことはなかった。
それは今日も例外ではなく、店の前には長めの列が出来ている。
「少し待つけど、待てる人だっけ?」
そんな妹の問いかけに、頷く。好きじゃないのは、人を待つときだけだった。
妹に関して、ずっと忘れられないことがある。
あれも待っていた時だ。人の多い遊園地。
どこかのタイミングで私は妹と二人きりになった。
その時、貴方のことが人間として嫌いだと、私は妹にそう言ったのだ。
何か言い返されたような気もする。妹もあの時のことを、きっと覚えていると思う。
姉らしく、なんて考えたことも無かった。
あの時の私は、あの時の私も、ずっと全てを放り投げてしまいたかったのかもしれない。姉という役割でさえも。
それは私自身にとって、自由な権利だった。
ただ、姉を放棄されてしまった妹は、今、私のことをどう思っているのだろう。
席について、メニューを選んで。
結局、料理が出てきたのは並び始めて一時間後だった。
アルミホイルにナイフを入れる。じゅわ、と熱されたソースが音を立てた。
ナイフで切ってフォークで突き刺してみるも、柔らかすぎるハンバーグ。ほろほろと崩れていってしまう。
スプーンで食べたほうがいいのではないかと思わせられるくらいだ。
飲めるようなお肉を頬張り、妹から勧められたロゼに口付けた。
ほのかな酸味がさっぱりと口の中をリセットしてくれる。
母から妹の愚痴を聞いたことがある。
妹から母の愚痴を聞いたことがある。
母から父の愚痴も、妹から父の愚痴も。
父は、どうだろう。愚痴というよりはボヤキみたいな言葉。母に関しても、妹に関しても。
きっと、私も。
何だかちょっと疲れてしまう。酷く狭くて、窮屈なまま。
でもこれが私達の根源であることは、きっと間違いなくて。
デザートまで綺麗に平らげて、重くなったキャリーケースを引く。
人の行きかう改札前。
別れ際、正月は帰らないかも、と、ちょっと本気で言ってみる。
いいんじゃない?と。何でもないように妹はそう言った。