食べ物と私

食べます。

早く帰ったフルーツタルト

気持ちのいい午後。

何となく気分じゃなくて、カラカラと自転車を押しながら帰り道を歩いていく。

早く家に着くより、ちょっと重い荷物を抱えながら音楽を聴きたいような、そんな曖昧な気持ちだった。

 

とは言え、実は帰っている場合ではないのだ。まだやることは残っている。

しかし、まあ仕方ない。こちらとしては、むしろ午前中頑張っただけでも褒めてやりたいくらいなのだ。

元々の私のスタイルから外れてはいないのだが、明日出来ることは今日しない、出来るだけ手を抜いて、と他者から言われたことも何となく後押しになっているのかもしれない。

 

数年前から追加し続けているお気に入りのプレイリストから、数年前に何度も聴いていた曲が流れてくる。懐かしい、背中を押してくれるような曲だ。

 

午前中だけだったとしても私は私を労いたくて、ちらりと横目で小さなお店を見る。

いつも道にある、食べ物やさんということしか分からない、謎のお店。

それでも店頭にはソフトクリームのメニューと、よくあるソフトクリームの形をした置物が置いてある。

 

メニュー表記の既視感から考えても、きっと全国各地で売られている、普通のソフトクリームなのだろう。

それでも私はここのソフトクリームが密かに気になっていた。

 

しかしながら、小さいお店。店頭に店員さんが立っている訳でもない。加えて大通りに面している道だ。

自転車を押しつつ、ソフトクリーム片手にマスクを外して歩くのはちょっと20歳前半には憚られた。

 

仕方なくその数メートル先、朝にも入店したコンビニに入る。

ふらふらと無意識にアイスコーナーに向かってしまうが、やはりちょっとしっくりこない。

そこで見つけた、スイーツコーナーの宝石。

少し値が張るが、今日はもういいだろう。柔らかく、潰れないように持ち帰る。

 

実はこちらも密かに気になっていた、フルーツタルトだ。

 

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少し変わった容器に入った綺麗な果物のタルト。

小さなフォークを持ってきて、ぐっと真ん中に力を入れる。

舌のクッキー生地の割れ目に沿って、一口大に切り分ける。

 

口に運ぶと、果物たちの酸味となめらかなカスタード、ザックザクのタルト生地。

幸せの、上品な味。午後に優しい、綺麗な味だ。

 

本来ならまだ用事がある。

みんなは残っている中、昼間に一人で家にいると、小さい頃、熱で学校から早退した日のことを思い出す。

部屋から見る、きらきらとした晴天、開け放した窓からそよぐ風が熱っぽい体を撫でる。レースのカーテンがなびいている風景だけを見ていた。

 

特に熱もなく、健康なまま。

ふと顔を上げてみれば、透明で柔らかかった陽ざしは、徐々に赤く染まりつつあった。