食べ物と私

食べます。

高貴な焼き鳥丼

「居酒屋行かない?」

 

同居人にそう誘われて、もうずいぶんと言っていなかった鳥貴族へ足を運ぶこととなった。

もっとも今、禁酒中なので私は飲めないのだが。

理由もろともそのことを告げると、同居人は少しだけ呆れたような、怒ったような、そんな曖昧な声で眉を下げた。

ちなみに妊娠ではない。

 

私だってこうでもなければ言うつもりはなかったのだ。

「面倒な反応、するから?」

そう聞かれて、否定はしなかった。全くもってその通りだったから。

 

つくづく冷たく、嫌な奴だと思う。

でも今は、ただどうでも良くなってしまっている。

それだけだ。いつだって、それだけのことなのだ。

 

飲めないなら、と渋る同居人の背中を押し、居酒屋に到着。

人の楽しみを縛る権利など、私にあるはずもない。

それに酒がのめないなら、炭酸で腹が膨れない分、たらふく食べてしまえばいいだけの話なのだ。

 

どうにか席は空いていたようで、初めて見るタブレット式のメニューでどんどん気になるものを注文していく。

普段は自制しているが、その必要もないと、早速焼き鳥丼を注文。

本来締めで頼むものなのだろうが、関係ない。私はお腹が減っているのだ。

 

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先に届いていた甘さの強いはちみつジンジャーに口をつけて、目の前の丼を頬張る。

ぷりぷりの鶏肉に、濃厚な甘辛いタレ、全てが白米とマッチしていて、とてもとても美味しい。

シャキシャキとしたネギもいいアクセントになって、口内をリセットしてくれる。

 

上手くいかないことが多い。

あっちを拠り所にすれば、こちらでほころびが出て、そのほころびを直そうとしていたら、今度はそっちが寂しがってしまって。

 

どうすればいいんだよ、と、きっと誰もがずっとそう叫んでいるんだと思う。

 

適当、もしくは真面目な話をがやがやとアルコールに溶かしている周りの人も、一心不乱に焼き鳥丼を掻き込んでいるだけの私も、それを見て生ビールを傾ける同居人も。

 

自由になりたいと思う。

一日中ネットサーフィンをするとか、お金のしがらみから解放されるとか、そういうことも自由なのかもしれないけど、ちょっと違う。

裕福に堕落したいという意味ではなくて、孤独になりたいという意味でもない。

 

ちょっと荷物を下ろしたいとか、解き放たれたいとか。

もしかしたら、そういう表現が合っているのかもしれない。

 

するべき行動、言うべき言葉、浮かべるべき表情。

理解するべき存在、考えなければいけないこと。

誠意、品性、義理、同調。そこに加わる、苦い私。

 

そういうことを少しだけ、いや。もうずっと、忘れていたいのだ。私は。

 

最後、ノンアルコールビールを頼み、一気に飲み干してしまう。

脳に染みるわけでもない、ただ苦い麦の味が、パンパンの胃に広がった。