何か作業をする時、ゾーンに入る時がある。
始めるまではツイッターだったり、他のアプリだったり、目移りしてしょうがないというのに、カチリ、とスイッチが入った瞬間、他の何も聴こえなくなる。
持ち帰ることが許されなくて、作業場でしかできない仕事。
私は一人が好きなのに、そこには当然たくさんの人がいて。
それでもゾーンに入った私は無敵だった。
飲み切った紅茶花伝の横にデカビタの缶を追加しながら、まるでピアノを弾くように段差の高いキーパッドを叩いていく。
やらなくてはならないことをさぼって、もっとやらなくてはいけないことをする。
矛盾しているようで、そうでない。
多分大人になるにつれ、そうしていかないと世界が回らなくなっていくのだ。
陸で息をするのだって、大変なのだ。
ふっ、と、手が止まる。
パソコンに表示されたバラバラの文章。
これらをどうまとめればいいのか分からなくなった。
間違っておもちゃ箱をぶちまけてしまって、どこに仕舞うのが正解なのか分からないような、そんな感覚。
どうやらゾーンは終了してしまったらしい。
でもまあ、おもちゃは完成しているのだ。散らかり具合を見ても、片付けは後日で問題なさそうだった。
「目、空いてないし、顔白いよ」
帰ろうと立ち上がると、こんな時間まで残っている友達の一人が、私の顔を見て心配そうに眉尻を下げた。
そんな彼女だって、ここ数日元気がなさそうだ。
全てはきっとこの部屋のせいなんだろうけど。
彼女に軽くお礼を言って、そんな白く四角い部屋を出る。
朝から降り続いていた雨は、闇夜に上がっていた。
暗く、ぬかるんだ道を自転車で帰る。
朝、滑りそうになった難所もクリアし、寒さに身を震わせた。
ぼんやりした頭、どうやら思いのほか疲れ切っていたらしい。
そのまま家へ直帰でも良かったのだが、何となく味気なく感じてしまい、家の数メートル前で、明かりの灯るコンビニへと向かう。
何が欲しかったのかは分からない。寒さだって健在だ。
それでも気づいたら私は、忙しく輝く冷蔵のケースから、200円もするセブンイレブン限定のアイスクリームを手にしていた。
家に帰り、流石に寒かったので、エアコンだけ入れる。
その後脳死でお風呂に入ってから、ようやく買ってきたアイスに手を付けた。
ごつごつとしたチョコレートのコーティング。
この見た目で外れだったアイスを私は知らない。
一口齧ると、少しほろ苦いコーヒーの味。
あまく。ほろほろ、とろとろと口の中で溶けていく。
ざくざくとした何か……ナッツだろうか?これも美味しい。
ふう、と息を吐きながら、濡れた髪をちょっと払う。
幸い明日は休みだ。
甘さにほだされながら、止まったままの頭を少し撫でてみた。