端的に言うと今日は地獄だった。
予定されていた地獄。
過去のマラソン大会の日の朝を思い出す。
まるっきりそんな気持ちだ。
鬱々としてしまう前に、カーテンを開け、しゃかりきに動く。
いつもは嬉しいはずの青空だって憎たらしい。
もっとも、雨だったらもっと文句を言っていただろうが。
それから、いつもよりちょっと気合を入れてメイクをする。
もちろん、推しのオレンジ色の力を借りて。
見かけだけでも強くなることは、私にとって重要だった。
そして大事な朝ごはん。
腹痛を鑑みていつもより早めに食べることにする。
前日、魔法瓶に淹れていたお湯で、ブレンディのカフェオレを溶かす。
最低な朝の最悪な気分を想定した、昨日の私からの一杯。
ちなみに奥のサンドイッチも、同じく昨日準備したものだ。
どうせ食べるものを用意する余裕なんてないだろう、と、昨日の私の声が聞こえる。
ブレンディのお湯に溶かして飲むシリーズは、毎年冬が来る度にお世話になっている。
今年初めて買ったこれは、カフェオレ味だ。
慣れたカップを口に運ぶ。
お湯は沸き立てじゃないからすぐに飲める。
ちょっと落ち着けるような程よい甘さと、程よい温度。冬の味。
大変な日には、色々と構えて挑むことが多い。
たとえば今日みたいに朝ごはんを作っていたり、洗濯を済ませてあげていたり、お風呂にすぐ入れるよう、準備を整えてあげていたり。
いつも私は、私のために何か施しをする。
昨日の私、今日の私。きっと、明日の私も。
そうやってずっと繋がってここに居る。私はどこまでも地続きなのだ。
本音を言うとあまり食欲だって無かったが、数時間後、地獄の渦中にいる私と今の私だって繋がっている。
食べないわけにはいかない。
今は正直、そこまで味のしないサンドイッチを頬張りつつ、カフェオレで身体を温める。
震えている今日だって、遠目から見ればほんの一瞬でしかないのだろう。
またどこかの私へと繋がっていく。
ワープする術なんて私は持っていないから、今はただ、そのどこかの私へと移り変わるのを待つばかりである。
あーあ。
どう足掻いたって、憂鬱だ。
それでも明日を見据えつつ、今日まで生きてきた私をちょっとだけ褒めてやりたい。褒めてあげられればなぁ。
食べ終わったら、数年ぶりにリップでも塗ってみようかな、なんて思ってみる。
似合うかどうかはさておき、もちろんオレンジ色で。どうせ誰にも見えやしない。
それでも、見えなくとも、きっと私の力になってくれるから。
午前九時の、少し前。
私は色々な私を携えて、玄関の扉を開けるのだ。