食べ物と私

食べます。

労りスイーツ、ロールケーキ

昔から人前に立つことは苦手だった。

苦手な割に、その機会に恵まれてきた。何でだ。

今日も今日とて、震える声でマイクを握った。

 

本当に酷い目にあった気がする。

緊張すると胃が縮む感覚は知っていたけれど、終わった後元に戻る感覚だって痛いんだな、とぼんやり思う。

 

こうなったら手間でもいいから、大勢の前で話すよりも、一人一人に演説して回る方がかなり気が楽だ。

最も、その一人一人がまったくもって優しくないのだが。

 

それでも全ては終わったことだ。

とはいえ、またすぐに巡ってくる。

本当に嫌になってしまう。

 

そんなこんなで午後の予定を飛ばし、家で不貞寝していた所、同居人がほい、と買ってきてくれたふわふわ。

気づけば時刻は午後九時を回っていて心底驚いた。

 

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同居人の買ってくる甘いものは、私の買ってくる甘いものとは少し違う。

私だったらいかにもハイカラです、というような洋菓子系のスイーツを買うのだが、同居人にお使いを頼んだ時には、基本的に和のスイーツが選ばれる。

 

目の前にあるロールケーキだって、きっと店頭に並んでいても私は選ばない。

強欲な私はクリームと生地だけじゃ味気ない感じがして、ちょっと躊躇ってしまうのだ。

 

それでもここにこのロールケーキがあるのは、同居人の存在があるから。

 

お風呂を済ませ、せっかくだから一緒に食べようと、私はコーヒーの代わりにビールを用意する。

同居人は拒んでいたが、ファンキーな夜にはこれくらいが丁度いい。

 

そんなこんなで、労いのふわふわを一口。

手で食べてみたが、今にも潰れてしまいそうなほど柔らかい。儚い、という言葉が似合う可愛さだ。

 

そんな生地はすぐに口の中でなくなった。きえたのだ。

ぎっしり詰まっているはずの生クリームだって、ふわりふわりと溶けてしまう。

 

あれ、ロールケーキって、こんなにおいしかったっけ。

 

いくらでも食べられそうだな、と思いながらあっという間にふた切れを完食してしまう。

少し悲しくなって、ビールを流し込んだ。

 

酷い目にあった日の最後、こうやって甘いものを食べることはもはや必須であるようにも感じる。

 

頑張った私を労って。

疲れた私を褒めてあげて。

 

そんな自分でしかできない行為に、貢献してくれる同居人には多大なる感謝をしなければならない。

果たして同居人が同じ境遇だった時、私は同じようなことが出来るのだろうか。

 

意地悪だなぁ、と思いながら、嫌な思い出をアルコールで溶かす。

少しだけ浮ついた頭で上機嫌になった私は、同居人の目にどう映っているのだろう。