一人の夜。
正直食欲より圧倒的に眠気が勝っていたが、食べないわけにはいかない。
そもそも、家に帰ってから今の今まで眠っていたのだ。約四時間。それでもまだ眠い。
とはいえ、今週は既に金欠だった。第一外に出る気力もない。
冷蔵庫を適当に開けて、本当に適当なご飯を作ることとする。
正しい卵かけご飯を知ったのは、小学三年生を少し過ぎたあたりじゃないかと思う。
これは完璧に父親が原因なのだが、私がそれまで認識していた卵かけご飯は、どちらかと言えば目玉焼き乗せご飯だったのだ。
まず、目玉焼きの白身を全部食べてしまい、残った半熟の黄身をご飯に乗せ、醤油を垂らし、混ぜて食べる。
これが父の言う卵かけご飯であり、私もそう信じ込んでいた。
呪縛が解けたのは「あたしンち」か何かで卵かけご飯について語る回を見てからだろうか。
ぼんやりと思い出しながら、一枚ハムをつまむ。
そのまま熱したフライパンに残りのハムを三枚、その上に卵を落とす。
ぴー、と、ご飯が解凍されたことを、電子レンジが告げてきた。
卵かけご飯は嫌いではない。
嫌いではないが、今日はあのドゥルドゥルとした白身の部分を食べたい気分ではなかった。
食べるラー油でも家にあれば、変わっていたのかもしれないが。
じゅわじゅわと音を立て始めたハムに従って、ご飯の上に一塊になったハムエッグを乗せてやる。
醤油を垂らせば、まるで朝ご飯みたいな晩御飯の完成だ。
スプーンで全部ごちゃ混ぜにしながら、一口。
もったりした卵の黄身と、生より少し肉感の増したハムが醤油でまとめられ、ご飯によく合う。
普通に美味しいが、完全なる朝の味である。
こういう、見た目を崩して食べるタイプの食べ物は何となく申し訳なくなってくる。
考えてみれば、なぜかカレーも小さい頃は全部ごちゃ混ぜにして食べていた。何となくカッコ悪いと思うようになって辞めたような。
でも卵が乗っている以上、混ぜて食べるしか選択肢はない。
黄身が絡まったところが一番美味しいのだ。と、私は思う。
こびりつく前に、さっさとキッチンでお皿をつけてしまい、一息つく。
再びやってくる睡魔に身を任せてしまおうかとも思う。今日もちょっと疲れていた。
しかし、その分の負担を負うのは明日の私であることも、きちんと私は理解していた。
あーあ。重たいなぁ。
気だるい体を動かして、どうにかパソコンをデスクにセットする。
ちょっとだけ、ちょっとだけでもやっておかなければ。
寒い夜。一人の夜。
ぼんやりとファイルを開きながら、遠くで自分を鼓舞するのだった。