母親に、悪口を言う夢を見て目を覚ます。
夢など最近、とんと見ていなかったと言うのに。
おまけに目覚ましよりも三十分早く目覚めてしまった。
全く、嫌な朝だと思う。
リアルな夢を見た日は、特に。
今日は少しだけやらなければいけないことがあるのだ。
とりあえず身を起こして朝ごはんを探す。
早く目覚めたのも、時間に遅刻するよりはいいのかもしれない。
あまり食材が無かったため、仕方なしに冷蔵庫からりんごを取り出す。
そして寒さを紛らわすためのブレンディのスティックも。
今日はココア味だ。
艶々としたりんごをそのままかじる。
実家にいた時も大概そうしていたが、一人暮らしをしてからはりんごの皮をむくことなど全く無くなってしまった。
小学四年生の、あの苦労したりんごの皮むきの授業はなんだったのだろう。
甘酸っぱい冷たさに、甘ったるいココアを飲む。
ミスマッチだと思った。
だが仕方ない。りんごは冷たいのだ。温かい飲み物は必須だった。
ぼんやりと食事をしながら、今日の夢を思い出す。
夢の中で私は実家にいて、今の生活について母に話していた。
私と母。二人だけがそこに居た。
同期の話になった時、私は少し愚痴を漏らした。
その時、母が何と言ったのかは覚えていない。
ただ、母は歪に笑った。
前のめりになるほどの興味が八割、後の二割は汚い好奇心と仄暗い楽しさで出来たような、そんな笑み。
そしてきっとその時、私も母と同じような顔をしていた。
これが夢の中だけだったのなら、どれほど良かったことだろう。
目が覚めた今でも、その時の母の顔が頭から離れない。
悪口を控えようとしている人や、好きではない人は山ほど居るだろう。
ただ、純粋に悪口の楽しさを知らない人間は、この世に一体どれくらいいるのだろうか。
りんごの少し痛んだ部分を見つけ、齧って一欠片吐き出す。
そんな夢を見ておきながら、このりんごも、このココアも、全部全部その母が丁寧にダンボールに詰めてくれた仕送り品なのだ。
なんであんな夢を見てしまったのだろう。
しかも、本当にピンポイントで汚い部分だけ。
今年実家へ帰らないことに、罪悪感でも感じているのだろうか。
何だかなぁ、と思う。矛盾はとても生き辛い。
まだ頑張ればもう少し身が食べられそうなりんごを、それでもティッシュに包んで捨ててしまう。
ココアを飲み干せば、溶け切らなかった粉末がコップの底を汚していた。
コップ、洗わなきゃな。
そんなことを思いつつ、同じコップに飲み水を注ぎ入れるのだった。