一日のやることを全て終えてしまい、パソコンを閉じる。
22時半と、切り上げるにはいい時間だった。
いつもより時間もあることだ。
どうせだったらちょっといいことをしてしまおうと、キッチンに向かい湯を沸かす。
コーヒーもいいが、最近は寝付きが悪い。
気休めかもしれないがカモミールティーでも飲んでみようと思ったのだ。
そして疲れた脳には何より糖分。
今日は頑張ったご褒美に、と、買っておいたものがあるのだった。
お湯の沸いた音がする。
ティーパックにお湯を注ぎ入れ、冷蔵庫からかわいいピンク色のタルトを取り出す。
コンビニでいつものスフレプリンと迷った後、見つけてきたいちごのタルトだ。
静かな部屋。
いただきます、と誰ともなく呟いて、一口、タルトを齧る。
しっとりとしたタルト生地と、酸っぱいベリーソース、甘くてやさしいいちごミルクの味が控えめに、ゆっくりと脳を満たしていく。
いちごの商品には惹かれないことが多いのだが、どうやらこれは当たりだったようだ。
今日は昼間、ひょんなことから妹と通話した。
誰かと電話なんて滅多にしないから、私達の会話はまず近況報告から始まる。
互いに遠い地に住んでいるから、状況なんて全く分からない。
それでもどちらの時間も確かに動いていて、進んでいて。
その間に、沢山のことが起こっている。
それが例え重いことであったとしても、離れている私達は精々互いの電話口に立つしかないのだ。
妹は色々な意味で、私なんかよりも様々な経験を積んでいるように思う。
それを知った時、彼女はどうだったのか。
今向こうで電話をかけてきている彼女は、一体どういう気持ちなのか。
想像することしかできない。いや、想像することだって難しい。
なぜなら私は、妹じゃないから。
熱すぎるカモミールティーを一口すすりつつ、窓からの冷気を感じる。
この寒さだって、向こうとここではきっと大きく違うのだろう。
同じ家で育って、どこから違えたのか。
きっと最初から、何もかも違っていたのだろう。
私は多分まだ何も、失ったことがない。
妹は妹の世界でしか生きられないし、私は私の世界の中でしか生きられない
きっと、ずっとそうだ。
電話口で妹はアップルパイを焼いていた。
半分無くなってしまった、目の前のいちごタルトを見る。
分からないことは多い。
けれどその中で妹の世界が、美味しいものを美味しいと感じられる世界であればいい。
綺麗なものを綺麗だと感じられる世界であればいい。
結局のところ、願うことしか出来ないのが人間だ。
こぼさないようにタルトを食べ終えてしまい、まだまだ熱いカモミールティーを見る。
今度、私の世界で美味しかったものを妹に教えてみようかな。
そんな遠くのことを思って、少しやるせなくなるのだった。