今日、同居人の用事が一区切りつく。
この数週間、同居人はいまだかつてない勢いで頑張っていたため、さすがに少し労わってあげたいという気持ちが湧いてくる。
とはいえ特別何かするわけでもない。
今日くらいは私自身のためでなく、他者のためにご飯を作ってみてもいいかな、と思っただけである。
母からのラインで外が寒いことを知り、買い物に行くことはひとまず取りやめる。
100均で買いたいものがあるのだが、ここ数日はずっと似たような理由で行くことを躊躇っている。
家の冷蔵庫にちょうど良く眠っていた豚の細切れ。
これさえあれば十分である。
随分と久々に米を研ぎ、炊飯器にかけ、鍋で湯を沸かす。
その間に常備している玉ねぎを適当に切ってしまう。
玉ねぎと肉があれば、大概なんとかメインは作れると思っている人間である。
鍋の湯が沸いたら、そこへそっと卵を二つ、割れないように入れる。
後は蓋をして放置。これで温泉卵が出来るはず……である。
そしてやることはあと少し。
豚小間肉と玉ねぎを軽く炒め、適当に水と和風だし、砂糖、みりん、醤油で煮込む。
後はじっくり待てば、豚丼が出来上がるはずである。
もしかしたら、私が初めて買った少年漫画だったかもしれない。
農業高校での生活を描いた、心がほっこり、たまにヒリヒリとする、見どころの多い漫画である。
そこで主人公が、出荷される未来にある子豚に名前を付けるのだが、それが豚丼なのである。
豚丼と聞く度、そのエピソードが思い出されて少しだけ切なくなる。
完結したようだが、9巻か10巻、どちらまで買ったか忘れてしまい、ずるずるといつまでたっても続きを買わないままである。
そんなことを考えている間に、同居人が帰宅する。
お腹が空いていると言うことだったので、大盛りに盛り付け、卵を落とす。
良かった。温泉たまごもいい塩梅だ。
二人で手を合わせた後、卵を割りつつ、一口。
少し濃いめの味付けで正解だった。
炊き立てのご飯にしみしみの肉と玉ねぎ、そしてとろとろした温泉たまごが見事にマッチしている。
ここ最近の料理の中でもいい出来だった。
美味しさは自然と楽しさに繋がってくる。
束の間のほっとしたような、うきうきしたような時間。
この時間のまま、ふわふわと何も考えずに生きていければいいのにな、なんて思ってみる。
美味しいものを食べている時は、少しだけ嫌な気持ちがおさまる。
私は幸せを食べているのだ。
今日は一段と食に感謝しながら、私は同居人と笑い合うのだった。