食べ物と私

食べます。

怒りと悲しみ、天閉じ丼

すごく、すごく嫌なことがあった。

 

ぐつぐつと頭が煮えるような午後8時。

帰路に着きつつ、言われた言葉がどうしても耳にこびりついて離れない。

 

言葉というものは不思議だと思う。

簡単に凶器に変わる、それでいてとても扱いやすいものだ。

しかも威力だってそんじょそこらの武器より抜群だ。

奥深くに食い込めば食い込むほど、長く長く傷つけることができるのだから。

 

生きていれば、事故のように人に罵倒されることはあるのだが、それにしても精神衛生上良くない。

 

鬱々としながらも、怒りのエネルギーが発散されていく。

嫌な記憶に費やす体力なんて、私は持っていないのに。

 

何だか悲しくなって、家から一番近いコンビニに寄る。

それだけで私の訝りがおさまるとも思えないが、とにかく何か、お腹に溜まるものを食べたかった。

とっくに晩御飯の時間は過ぎている。

心も体もギリギリなら、せめてどちらかは回復せねば。

 

温かいものを買って、温めてもらって、家に帰ったらすぐにマシになれるようにしよう。

 

優柔不断なくせに悩む元気もなかったのか、目に入った美味しそうな丼ものを手にレジへ並ぶ。

少し面倒な作業を頼まれたのだろう、レジは私の前の人がかなり長いこと占領していた。

 

ぼんやりと他の商品のキャッチコピーやチラシを読みつつ、後ろに長くなっていく客の列を見る。

ワンマンでやっているのだろう。いつもの店員さんも少し慌てた様子だった。

 

そしてようやく来た私の番。

「お弁当温めますか?」との問いに、大丈夫です。と返す。

コンビニの事情は分からないが、列ができているのに店員さんの仕事を増やすことをしたくなかった。

 

家で温めればいいか、と思いつつ店を出て、また一日の記憶がフラッシュバックする。

寒い空気の下、盛大にため息をつく。

 

店員さんと他のお客さんに配慮して、遠慮する心を持っている私が、何であんなことを言われなければいけなかったのか。

 

書いてみるとちょっと傲慢かもしれないが、切実に私はそう思った。

 

帰宅し、買ったものをレンジで温める。

3分間、その間にいろいろな準備を整え、やっとのことでご飯にありつく。

今日のご飯は、天とじ丼だ。

 

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スプーンと割り箸、両方入れてくれていた店員さんに感謝しつつ、スプーンを選択。

出汁をたっぷり含んだお米と、トロトロの卵、そしてくたくたになった海老天が、熱く口とお腹を満たしていく。

 

あったかい。美味しい。

 

惨めになったり、ありがたくなったり。

いろいろな気持ちが揺れ動く中で、天とじ丼がお腹を満たしてくれていることだけは確かだった。

 

早く忘れられるといいなと思いつつ、天とじ丼に免じて、苛々した心をどうにか撫でてみる夜だった。