私は小さい頃からパンが好きだった。
それも、菓子パンなど、生易しいものではない。
母に好きなパンを持っておいでと言われた時に食パンを持ってくるほど、生粋のパン好きだった。
朝だってもちろんパン派で、ご飯だった時にはそれなりに不機嫌になったものだった。
だからずっと海外の生活に憧れを抱いていたし、絶対に前世は日本人ではないだろうなと、幼心に思っていた。
しかし、そこそこ年齢を重ね一人暮らしを始めてから、パンだらけの生活は海外ではなくても出来ることに気がついた。
それどころか、やろうと思えば3食お菓子生活だって十分可能なのだ。
夜のファミレス。
何だか最近週1回のペースでお世話になっている「ガスト」へと足を運ぶ。
例の如く、今日もご飯を作る気力がなかったのだった。
朝の食パン以降、何も食べていないお腹はぐうと鳴っており、とにかくがっつり食べたいと喚いていた。
メニューに軽く目を通し、手っ取り早くチーズインハンバーグという定番のメニューを決める。
そしてサイドメニューに目を走らせる。
セットはライスとスープや、ライスとサラダなど種類豊富だ。
しかし、その中で私の目に留まったのはセットでも何でもない、単品のパンだった。
小さい頃はパン過激派だった私も、歳を重ねるごとにご飯の良さにも気付くことができるようになってきた。
悲しいかな、パンだらけの生活を欲している時はそんな生活は夢なのに、出来るようになった時にはもうご飯とも仲良くなってしまっているのだ。
だからハンバーグにご飯というのも正直捨てがたい選択肢ではある。
それでも、ファミレスのパンは侮ることができないのだ。
運ばれてくる、どことなくジャガイモっぽい見た目をした普通のパン。しかし、触ってみて驚く。
熱々なのだ。
忙しい時間帯のファミレス。パンとハンバーグは厨房の人が運んでくるほど手が足りていないように見える。
だからあり得ない話ではあるのだが、まるでパンは焼き立てのような手触りだった。
手を火傷しないようにふわふわとしたパンを優しくちぎる。伝わる優しい触感に、まるで何か悪いことをしているような錯覚に陥る。
一口サイズにちぎったそれに四角いバターをたっぷりと塗って、口の中へ放り込む。
パンの温かさで溶けたバターがじゅわりと滲む。
柔らかい生地には味らしい味を感じないが、飲み物のようにするすると胃に入っていってしまう。
それでいて、少しもちっとしていて、美味しい。
運ばれてきたハンバーグと共に、ぱくぱくとパンを食べ進める。
ファミレスでこんなに感動できているうちは、きっとご飯派に寝返ることはないな、と我ながらその頑固さに苦笑するのだった。