二日目の朝。
微妙な時間に起きて近所のカラオケに向かう。
引っ越すまでは聞いたこともない名前のカラオケだったが、破格で学生を迎えてくれるのだ。
何年経とうが人と遊ぶ時の選択肢はあまり変わらない。それこそ20歳になってお酒という選択肢が増えただけ。
大体は映画やカラオケ、ご飯で済ませてしまう。
遠出や慣れないことはどうしても向かないらしい。
私はまだ友達と旅行に行ったことがない。
フリータイムをお願いし、ドリンクを各々で選び、部屋に入る。
空いていたのか広い部屋。
持ち込みもOKだったので、ポップコーンを広げながら、まずは談笑。
歌う時間に入ったり、話す時間に入ったり。
私達のカラオケはいつでも自由型だ。
曲だって、別に歌えないもので構わない。MV目当てでもいい。
カラオケボックスは、やりたいことをやれる空間なのだ。
そしてノリのいい曲からバラードに選曲が移っていくように、私達が話す内容も軽いものから重いものへ移っていく。
私にとって友人iは真っ直ぐな人だ。
きっと私が揺り動かされない場面で彼女は揺れ、私が複雑にもつれている場面で彼女は真っ逆さまに落ちていく。
どうあがいても何かが曇らない、彼女の正直な所が大好きで、それでも少しだけ後ろめたかった。
大学時代に会ってから確かに多くの時間を過ごしたとはいえ、こんなに長く付き合うことになるとは正直思っていなかった。
私はどちらかといえば人に対しては淡白なつもりでいる。
しかしそんな中、卒業してからもなお会っているのだから、きっとどこかしらの波長は合うのだろう。
この波長がいつまでもこのまま、ぼやけることなく合い続けてくれたらいいのにな、とひっそり願ってみる。
カラオケを出たらもう20時で、飲食店はラストオーダーギリギリの時間だった。
お金もないので、二人して選んだのはこの時間でも繁盛している牛丼屋、「松屋」だ。
食券を買い、牛丼を受け取る。
店は二人で回しているのか、かなり忙しそうだった。
半透明な仕切りでお互いが見えないまま、二人で手を合わせる。
名残惜しい時間。別れの間際の食事だった。
人手が足りないのだろう、回り切っていない店内に続々と人が入ってくる。
それでも一人客が多かったからか、店は静かなままだった。
私達はただ無言で牛丼を食べた。
柔らかい色に染まった牛肉はジャンクとはほど遠い、優しい味をしていた。
お味噌汁も温かく、なんだかそれだけで気持ちがいっぱいになってしまう。
店を出ると、もう駅はすぐそこだった。
また控えめに手を振って別れる。
こんな日があと何回も、悪戯のように続けばいいと。寒空の下そう思った。