ブラジル産の鶏ももを買った。
基本私は国産の肉を買わない。こだわりがあるわけではなく、単純に高いからだ。
安ければ国産の肉を買う。
幸か不幸か私は味音痴だ。
味に出るのかは分からないが、私は肉の違いも分からない。
だから私が食べる分には、どれだけ安い食材でも構わないのだ。
どの国のお肉だって美味しい。その点については私の世界は平等なのだ。
スーパーから帰った午後1時。
朝ごはんとして買ってきたベーコンエピを半分食べる。
スーパーの店内調理スペースにあるパンはどれも高いが、その分菓子パンにはない種類がたくさんある。
代替えが効かない商品は高い物を買うしかないけど、だからこそ特別感があって私は好きだ。
ついでにサーターアンダギーも1つつまむ。
これも店内調理スペースにあったものだ。安いのと懐かしかったので、手が伸びてしまった。
幼い頃に食べたものより油っこく感じるのは、多分私の胃がその頃より弱ってきたせいだろう。
いまだ寝こけている同居人をしり目に、ポチポチとスマホで文字を打つ。
どうにか今日中に完成させておきたいものがあるのだ。
書くことに気力はいるが、峠を越えればあとは一直線であることは知っている。
なんとか目処が付きそうなところまで来ていたので、あとは一気に書き上げてしまった方が早いことも。
とはいえ時間はかかり、結局タブレットを置いたのは午後7時。
これから晩御飯をつくるのは面倒だったが、肉を買った手前仕方ない。
ブラジル産の肉が安かった、と、夕刻に起きてきた同居人に話しながら腰を上げる。
その背中に、「臭み抜いてね」と冗談交じりの声がかかる。
キャベツを刻み、にんじんを切る。
鶏もも肉は生姜、みりんと砂糖、醤油と一緒にポリ袋へ。
にんじんを素焼きにしている間、漬けておく。
あとは簡単に、鶏もも肉を焼くだけ。焼くだけだ。
うちにはナイフなど便利なものはなく、かといって包丁で切るのも面倒だったため、キャベツの上にどんと肉を乗せた。
そのまま、まずはにんじんを一口。
冷蔵庫の中で2週間弱放置されていたはずなのに、なぜか酷くあまく焼き上がっている。
本命の鶏もも肉に齧り付くと、照り焼きの甘辛いタレとジューシーな肉の触感が口の中でいっぱいに広がった。美味しい。
キャベツだけが外れだったようで、少し青い味がした。
隣で「作ってくれた料理、美味しい」と言いながら、同居人は肉を食べた。
ご飯を作ってくれるのはありがたい、と。どうやら臭みとやらは無かったらしい。
良かった、と私はまた一口、肉を齧る。
ブラジル産の鶏もも肉がいくらで、国産のもも肉がいくらだったのか。
私がどうやってこの鶏ももを調理したのか。
同居人は、きっと知らない。