妹のバイト先にご飯を食べに行く。
「行くなら予約しとくけど?」とちょっとツンデレ要素のある妹から数日前にメッセージが来たのだ。
妹はバイトの休みを取ったらしい。
だから妹と母と私。今日は三人の食事である。
自分の車を運転する妹を見ながら、何となく圧倒されてしまう。
バイト先は個人営業の少し高いイタリアンのお店らしい。
妹のバイト先が、業務の入っていない時に行けるようなバイト先で良かったなと思う。
妹の性格もあるだろうが、いいバイト先でないと家族を招待しようとはなれないと思うから。
私は喫茶店と花屋でバイトをしていたことがあるが、どちらも私は家族を誘うことはもちろん、自分が利用することすら出来なかった。
プライベートと仕事を分けなければ気持ちが悪いのだ。
もっと言うと、仕事で一緒になる人達にプライベートな面を見せたくない。
だから私の場合はバイト先が優良物件であったとしても、どうしても友達や気を許せる人が出来ないのだ。
気を許さないまま、他人のままの業務が続く。
どうりで労働が向いていないわけである。
店の扉を開けると、優しそうな店主の夫婦が迎え入れてくれた。
どうやら私は「妹さんとそっくり」らしい。
一番奥、窓際の四人用の席に着く。
食べ物も飲み物も特に詳しくないため、一番知っているであろう妹に丸投げしてしまう。
運びながらも食べたかった料理があるのだろう。
妹はあれよあれよと後輩らしきウェイターの女の子に注文を済ませてしまう。
妹曰く、今日は店が暇な日らしい。
確かに店内はゆったりとしていて、私達の話し声が響いていた。
少し待っていると、色々な料理が出てくる。
何も分からないまま、出てくる料理を食べた。
前菜のオードブルなんかは、説明されているそばから忘れてしまう。
何かのお肉、何かのサラダ、何かの和え物。
何が入っているのかはよく分からない。
分かることは、ただ美味しいことだけだった。
多大なサービスを受け、メインの肉を食べる頃にはかなりお腹のベルトがキツくなっていた。
食べ応えのある、けれど柔らかい肉を食べながら、スッキリと飲みやすい赤ワインを飲む。
ふわふわとして楽しい気持ち。
お金も何もかも気にすることなく、久々に食自体を謳歌することが出来た気がした。
パンパンのお腹で、それでもデザートまで残さず平らげつつ店を後にする。
店主達は柔らかい笑顔を浮かべながら店の外まで見送ってくれた。
ワインで温まった体。
胃に多少の苦しさを感じつつ、美味しさの余韻に浸るのだった。