夏が終わる。
ツイッターを見ていると既に寒い地域もあるようだが、私が住んでいる所はまだ蒸し暑くてエアコンが手放せない。
とはいえ、冷たい麺類を欲する季節はもう過ぎ去ってしまったようだった。
じゃがいも、人参、玉ねぎと、鶏肉。あと冷蔵庫で死にかけてたキャベツも。
また牛乳を買ってきたのと、今日はとっておきもある。何より胃がまだ本調子じゃなくて、温かくて優しい味を求めていた。
今季初のシチューに最適のタイミングだ。
シチューと言えば、少し特殊かもしれないが『ONE PIECE』を思い出す。空島でサンジが作った焼き石シチューだ。
特に大々的に描かれていたわけではなかったと思うのだが、何となくあのシーンが忘れられない。多分、その時の「栄養を無駄なく摂取できる」というような彼のセリフが原因だ。
栄養を無駄なく摂取できる。栄養を、無駄なく、摂取できる。
なんて魅惑的な言葉だろうと思う。
何一つ余すことなく美味しくいただくことは、私の一つのポリシーのようなものである。部位はもちろん、栄養も。
何でシチューが栄養を無駄なく摂取できる料理なのかは分からない。
煮込む料理なら他のスープでも同じじゃないか?と思わなくもないが、私は完全にサンジを信じ切っている。
単行本派なので見たのは白黒の絵だ。特に料理漫画でもないのに、ここまで記憶に爪痕を残すサンジのシチュー、おそるべし。
そんなことを考えつつ、切った具材を多めに入れた牛乳で煮込んでいく。
根菜は水から火を通すと聞いたこともあるが、私はほろほろになっていない少し固いじゃがいもと人参が好きなので一番最後に入れている。
母の遺伝か私の欲張りか、汁ものは気をつけようにも何故か鍋の淵ギリギリまで溢れんばかりに作ってしまう。しかも具材が多い。
ヘラだとちょっと危ないので、菜箸で慎重にシチューを混ぜた。
暑いキッチンにのぼる湯気が、既に美味しさを訴えていた。
鍋から沸き立つ湯気は特有の安心感を私に与えてくれる。心がほぐされる。
そろそろ出来るかな、というタイミングで、私は冷蔵庫からとっておきを取り出す。
その名も「薄切りモッツアレラチーズ」。
シチューにチーズを入れると美味しいという情報を耳にしてから、私は欠かさずにチーズを入れるようになった。カロリーなんて高くてなんぼだ。
幸福感とカロリーを摂取するために、人は食事をするのだから。
そんなこんなで少し時間をかけて完成させた、久しぶりのシチュー。
嬉しくなって、パセリなんかかけてみる。私の予想通りなら多分サンジも緑をかけるはず。
味はもちろん、間違いない。美味しい。あったかい。
じんわりと汗をかきながら、スプーンでまた一口掬う。大量に出来ることもシチューのいいところだ。
いい食パンが手に入ったんだった、と浅ましい私はそんな風に、既に明日の朝食へと想いを馳せるのだった。