最悪の日に「お疲れ様」と貰ったお菓子を食べつつ、ふと思い出し、慌ててこの写真を撮った。
キャラメルのブールドネージュ。
別名、スノーボール。
私の大大大嫌いな人が好きだったお菓子だ。
出会いは高校一年生の時。
彼女は部活の先輩だった。高校の時、私はバレー部のマネージャーをしていたのだ。
肌が白くて、細くて、サラサラの長い髪で、少し出っ歯な彼女。
よくある話だ。三年生が居た時はいい顔をしていたにも関わらず、引退したら態度が豹変。
挨拶無視は当たり前。
業務だって出来ないからという理由でまともに教えてもらえない。
部員の前で私をこき下ろす、挙句の果てには他の部のマネージャーにも悪口を叩くわで、本当に手がつけられなかった。
先輩だから苦渋を呑んで見逃していたものの、もちろんその先輩のことは昔も今も大っ嫌いだ。
というか当時だって嫌なら嫌と言えばよかったと、そう思う。
実際問題、出来るかどうかは別として。
そんな先輩が事あるごとにせがんでいたお菓子、スノーボール。
私だって甘党だ。
もちろんスノーボールは好きだった。甘さをまとったまま、サクッとほろほろ溶けていくあの食感も。
真っ白でころころとしていて、名前の通り雪みたいで、かわいいかわいいスノーボール。
味が、というわけじゃない。さすがに味覚までは操作されない。
けれどスノーボールは、これで何となく避けてきたお菓子ではあった。
つくづく変な話、下らない話だと思う。
相手が嫌いならなおさら、気にしてやる必要はこれっぽっちもないというのに。
それでも人間、嫌な記憶はまとわりつく。
嫌悪感が深ければ深いほど、その範囲だって大きくなって。
元はと言えばそいつのせいだが、結果的にトゲトゲと、私が私を奪ってしまう。
そんなこんなに、もう私は飽き飽きしているというのに。
……それでも。
確かに、急いでこの写真を撮るくらいには、まだあの先輩の記憶は残っている。
しかし、封を開けて二、三個食べて思い出すくらいには、先輩の記憶は弱まっているのだ。
考えてみればもう七、八年前の話になるのだろうか。時の流れは遅くて早い。
「そいつ誰だっけ?」なんて全部忘れられることはきっとない。されたことはずっと、きっとずっと覚えているし、ずっと嫌いだ。
でも、何も考えずにスノーボールを大量に食べられるくらいには、いずれ回復して欲しいな、とつくづくそう思う。
何はともあれ、このスノーボールは今の優しい先輩から頂いたありがたいお菓子だ。
残りは温かい紅茶でも淹れて、大切に頂くとしよう。
スノーボールのこと、私は好きではあるのだから。