今日も今日とてやる気が出ない。
こんなに料理をしていないのは本当に久しぶりだと思う。
ふた玉のキャベツも、賞味期限切れの卵も、きっと冷蔵庫で泣いている。
それでも仕方ないと言うしかない。
なんたって今週は本当に、本当に忙しく、そのツケが溜まったのか、今日なんか誇張なく一日中惰眠を貪っていた。
そんなわたしを見かねてか、同居人がキッチンに立つそぶりを見せたので、私は慌てて止めた。
食材を使ってくれることはありがたいのだが、いかんせん手伝う気力が湧かない。
全部やってもらって罪悪感に苛まれるのはごめんだった。
代わりに以前、ダウンロードしっぱなしだったアプリを使おうと提案する。
料理にもそう乗り気ではなかったのだろう、少しだけ私と眠っていた同居人も、すぐに頷いた。
最近は出前のアプリも増えてきて、そのどれもが初回クーポンをプレゼントしてくれる。
あさましい私はそれを見つける度に、違う出前アプリへと浮気を繰り返しているのだ。
朝から何も食べていなかったのでお腹は空いていた。
それに、私にしては珍しく食べたいものも決まっていたのだ。
運良く配達区域にそのお店があったので、早速注文する。
このご時世ということもあり、慣れてしまったが、顔もわからぬまま、そっと食糧がドアの前に置かれている光景は、よく考えるとどこか不思議である。
やり取りとも呼べないくらいの、静かな接客。
まるでサンタクロースのようだな、と、アプリの通知にドアを開け、ビニール袋を手にしながら、私はぼんやりと思った。
頼んだのは鶏肉と玄米、そしてサラダ。
特にダイエットをしているわけではないのだが、何となく健康そうだ。
無意識のうちに野菜を摂っていない危機を、体が感じ取っていたのかもしれない。
とりあえず壊滅的だったここ数日の食生活に比べれば、何倍も栄養がありそうだ。
鶏肉にもいろんな種類があった中、私が選んだのはガパオライス。
ぷりぷりの鶏肉に、少しスパイシーなソースがかかっている。がっつりお肉、という感じ。下に敷かれた硬めの玄米とよく合う。
サラダは言わずもがな、美味しい。生野菜を食べるのはとても久しぶりであるような気がした。
手と口を進めつつ、何となく自分が元気になっていくことを感じる。
見た目も華やかで、多分栄養バランスも考えられている。しかも、クーポンのおかげでお財布にだって優しい仕様。
罪悪感のない、楽しい堕落だ。
こういうのもアリなのか、と思う。
堕落には背徳感が付き物だったから、少し新鮮な気持ちだ。
心と体を整えるために、手段は選ばない方がいいと、再度胸に刻む。
全て食べ終わり、簡素なお皿をビニール袋にまた戻す。
再び訪れる眠気に、今日はもう従ってしまおうか、なんて思いつつ、私はあくびを漏らすのだった。