食べ物と私

食べます。

おしまい、大人のクリームソーダ

「昨日の話なんだけど」


居酒屋、鳥貴族に到着し、ビールを一口飲んだ時、元同居人がそう切り出した。


昨日の夜。

私の部屋を訪れた元同居人に対し、私は少し踏み込んだことをぶっちゃけたらしい。

とはいえ、その時はアルコールを摂取していたため言ったことはあまり覚えていない。

こうなるから酒を飲んでいる時はあまり踏み込んだ話をしたくなかったのだが、元同居人から「アルコールに頼らないと受け止められない」と懇願され話してしまった。


ビールを置いて、スピードメニューで頼んだ冷やしトマトに箸を伸ばす。

元同居人はトマトが嫌いだ。


ずっとずっとわだかまっているはずなのに、こうやっていざ話すとなると、目を見ることが出来ない。わざと核心に触れないような話し方をしてしまう。


でも、分かっている。


すぐに疑いにかかるところが嫌いだ。

私の機嫌を伺うところが嫌いだ。

前向きな面だけ捉えてしまうのが嫌いだ。

被害者面が嫌いだ。

何かと理由や原因を探す癖が嫌いだ。

何気ない話題に否定で返すところが嫌いだ。

触られるのが嫌いだ。


もう、好きじゃないのだ。好きじゃない。


「恋人としては厳しいと思ってる」


別れたい。


そう直接は言えなくて、精いっぱいの拒絶をした。

元同居人はしばらく黙った後、弁解のように、謝罪のように、私が遮断した「これから」について話し始める。


伝わっているような、いないような。

それぞれの願望と想いと疲れが入り混じって、変な形になっているのだと思った。

私はどうだって良かった。

もう元同居人とどうなりたいとも思わない。それ以上でも以下でもなかった。


結局、別れるには時間が欲しいという元同居人の願いを聞き入れ、距離を置くという形に収まった。


タッチパネルを操作して次のお酒を頼む。

なんといっても、ここのお代は元同居人が持ってくれるのだ。

思考を飽和させるため、空気から逃れるため、奇抜で新しいメニューを頼む。

少し零れながら運ばれてきたそれ。アルコール入り、大人のクリームソーダである。


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細長いスプーンでアイスをすくいながら、パクパクと食べ進める。

ストロー、というわけには行かないのでジョッキを傾けてお酒を飲む。

全くアルコールを感じない、何味かも分からないシロップの甘さが口内を占める。


目の前には引き続き生ビールを傾ける元同居人。

別にこの人を目の前から全く消し去りたいわけではない。

ただ、今のままでは彼の人生が私の人生の邪魔になる。

私だって、彼の人生に携わるには少々重すぎるのだ。


これからどうなるのかは分からない。

どうしていきたいとも思わない。

ただ、私が独りぼっちで、私のことだけを愛せたらいいと思う。