学校の近くにパンケーキ屋があるというのは、元同居人からの情報だった。
外は雨。
買ったばかりのロングコートの裾を気にしながら小さなお店に向かう。元同居人も一緒だ。
実は以前にも足を運んだことのあるこのお店。
元同居人曰くとても美味しいらしいのだが、以前は運が悪いことに閉まっていたのだ。
今回も密かにそれを危惧していたのだが、どうやら杞憂だったようで、店の看板はビニールをかぶせられつつ立派に立っていた。
木製のドアを開けると、中には小さな席が四つ五つ。
調理場が見渡せる、オシャレな作りの店だった。
何だか初々しいカップルの隣に座りながら、たくさんのパンケーキのメニューに目を通す。
どれも美味しそうで目移りしてしまうが、値段と食べたいものと照らし合わせた結果、ピスタチオアイスがついたパンケーキを選ぶ。
元同居人は抹茶味のパンケーキを選んでいた。
パンケーキを待つ間、元同居人と適当に話をしながら、隣のカップルの話に耳を傾ける。
悪い癖だとは思っているが、これがどうしても抜けないのだ。
触るように聞く感じだと、二人ともこの春から新生活を始めるらしい。
横目で見てみれば確かにどこかシャンとした格好で、気合が入っているような。
私達とは大違いである。
よそ見をしていれば、調理場から二つのお皿が伸びてくる。
背が高くて小さなパンケーキの登場だ。
お好みで、と言われたメープルシロップを間髪入れず、全部かけてしまう。
小瓶に入っているものはどうしても全部使い切りたくなってしまうのだ。
一番大きなパンケーキを崩さないように切り分けながら、一口。
しっかりとした生地に、ピスタチオの味とメープルシロップ、そして転がったカシューナッツの風味が広がっていく。
上に盛られた生クリームには甘さがなく、スッキリと食べやすい。
もったりとした生地のせいだろうか。
オシャレな店ではあるが、パンケーキはどこか懐かしい、家庭的な味がした。頬が綻ぶ。
お腹が空いていたこともあり、おしゃべりをしながらゆっくり食べ進めるカップルに対し、ものすごいスピードで一心不乱に平らげてしまう。
少しだけ恥ずかしくなった。
食後のコーヒーはゆっくり嗜もうと心に決めている間に、カップルたちは店を出て行ってしまう。
幸せそうな後ろ姿にちょっと手を振りたくなった。
ホットコーヒーで体が温まれば、私達も準備は満タンだった。
テンションの上がらないビニール傘。
それでも雨を凌いでくれるそれを広げ、元同居人との相合傘は丁重に断る。
雨は嫌いだ。大嫌いだ。
それでもそんな中出掛けたカフェで、パンケーキのお腹は確かに幸せなのだった。