昨日の鬱憤がおさまらなかった朝。
天気がいいことを確認し、ある場所に行きたいという欲がむくむくと膨らんでいく。
幸い用事も午前中で終わるのだ。
私はストレスが溜まると、よくカラオケに行く。
何時ごろからこうなったのかは分からないが、どうやら歌うことは私にとって、唯一アクティブなストレス発散方法らしい。
というわけで、鬱々としたままの今日もまた、午後から同居人を誘ってカラオケにやって来る。
平日の真昼間。人は少なく、料金だってかなり安かった。
カラオケが好きだからと言って、歌が上手いわけではない。正直下手な方だとも思う。
私は女性なのに、女性アーティストの曲が歌えない。
音が高すぎるのだ。いや、私の声が低いのか。
時々男性アーティストの曲でさえ声が出ない。
しかし、そんなことは関係ない。
私がカラオケに来る理由は楽しむため。歌を上達させに来ているわけではないのだ。
歌えないか歌えるかは関係ない。歌いたい曲を歌う。
だからなのか何時間歌っても、私の歌のネタは尽きない。同居人は早々に切り上げていた。
色々な曲を、いつもは聴くだけだ。
それだけでも揺さぶられるものがあるのに、改めて歌詞をなぞると色々と込み上げて来るものがある。
もしかしてこの気持ちが、私の嫌な気持ちを払拭してくれているのだろうか。
結局フリータイムで19時まで歌い切り、来た時とは違った気持ちを胸いっぱいに抱えながら、帰路に着く。
「ケーキ買ってよ」
上機嫌なまま、何気なく同居人にそんな冗談を言ってみる。
帰路にある不二家。楽しい気分だったから、ケーキでも買って帰ってしまいたかったのだ。
しかし何を思ったのか、同居人は何の躊躇いもなく頷き、財布を出して不二家に向かった。
少し驚きつつ、ケーキのショーウィンドウの前に立つ。
どれがいい?との質問に、チーズケーキを指差すと、本当に買ってくれた。
何かの気まぐれだろうか。
我ながら傲慢すぎるお願いだったため、何で買ってくれたの、と尋ねていたら、400円くらいいいよ、と言われた。
私にとって400円は大金なのだが。
そんなこんなで、家には可愛いチーズケーキ。
優しく箱を開けてみる。
そろっとフォークを突き立てると、少し柔らかい感触。下のパイ生地もろとも口に運ぶ。
しっとりとしたチーズケーキだった。ほろほろと口の中で溶けていくような。甘いチーズが歌って消費したカロリーを全部、埋めていく。
ケーキは特別な日ならでは、と決めているのにな、と少し自分に罪悪感を覚えつつ、フォークは止まらない。
結局、クリスマスにケーキを食べていなかったことを思い出し、少し遅いサンタさんが来たということにして落ち着くのだった。