ハッと目を覚ます。
まだ眠いとごねる瞼を押し上げてスマホを見れば、午後11時。寝入ったのは9時くらいだから、2時間ばかり寝ていたらしい。
一日中、パソコンの前で人と繋がり、疲れ切った日。
家から一歩も外に出ていないのに、こんなに疲れてしまうのはなぜだろう。
就職するなら在宅がいいなと思いつつ、この調子ではそれすら危ういかもしれない。
ともかく、少なくとも午後9時という健全すぎる時間に電気も消さず、意識を飛ばしてしまうほどに、私は今日、疲れていた。
むくりと起き上がり、冷凍庫へ向かう。
別にもう用事はない。このまま寝てしまってもいいのだが、疲れているからこそ、睡眠を妨げてまで食べたいものがあった。
濃い赤の蓋。誰もが知るハーゲンダッツだ。
これは今日、疲れ切ってしまった私が、スーパーに行くらしい同居人に駄々をこね、買ってきて貰ったものだった。
久しぶりのハーゲンダッツ。
相変わらずの高級感を纏った蓋を開け、ビニールを剥がす。
柔らかくなった側面に少しスプーンを入れ、一口。
優しい冷たさ。キャラメル風味のまろやかなアイスに、シャリシャリとしたりんごが心地よい。
以前話していた時、「別にハーゲンダッツじゃなくても、同じアイスなら安いのでいいなって思っちゃう」といった友人のことを思い出す。
確かに、私もおおむね同意見である。
私のこの安い舌は、100円にも満たないアイスでだって、十分に満足できるから。
でも、例えば今日のように疲れ切った日。何や嫌なことに立ち向かった日。どうしようもなくいいことがなかった日。
味の良し悪しは別にして、乱暴にお金を使って幸せになりたい時が、私にはあるのだ。
そういえば、独身の叔父さんの家の冷凍庫では、ハーゲンダッツ以外のアイスを見たことがない。
何とも贅沢な冷凍庫である。
しかし、ハーゲンダッツが「当たり前」になってしまうことに、少しだけ寂しさを覚えてしまうのは、私だけなのだろうか。
200円ちょっとで、決して多くはない量。小さな幸せ。
冬の夜、体温すらも奪われながら、それでも私は確かに至福の時を過ごしているのだ。
冷凍庫に常にハーゲンダッツがある状態で、私がどうやってこの至福の時を過ごすのか、少しだけ考えてみる。
ケーキを買う、コンビニで気になる商品を全部買う。
もしくはカラオケに行くとか、反対にアクティブな方向になったりするのだろうか。
そんな想像をしつつも、今の私にはお金がない。
手のひらサイズの小さな幸せで満足出来るうちに、このドキドキを味わっておこうと、私はそう心に留めるのだった。