食べ物と私

食べます。

私達と海鮮丼

歩いて20分。田舎出身の私にとっては造作もない距離。

人の多い都会の駅へ、私は友達を迎えに行った。

 

「これを食べるって決まってからずっと楽しみで、お腹すかせてきたの」

 

しかし合流すると立場は逆転。

友達はそう言って、それでも道を覚えきれなかったのかGoogleマップを開きながらそのお店に私を案内してくれた。

 

来た道を少し戻って10分くらい。

角を曲がれば様々などんぶりを並べた看板が、でかでかと目に飛び込んできた。

 

サーモンのピンク、いくらの赤、真鯛の白、ウニの黄色。

彼女によると、ここは安くて美味しい海鮮丼のお店なのだそう。

 

昼の時間を少しずらして約束したのが功を奏したのか、狭い店内、少しも待つことなく私達は入り口に一番近いテーブル席に着くことが出来た。

外の蒸し暑さから解放され、一息ついて二人でセルフサービスの水を飲む。

 

彼女と出会ったのは大学に入学してからだ。

私たちは何となく出会い、何となく一緒に居ることが多く、相違点は多いのに何となく通じ合っていた(と、少なくとも私はそう思っている)。

 

料理を待っている間、少し話す。話題は久しぶりの生魚について。

 

「魚料理は面倒だし生ゴミは臭う、刺身も高くてなかなか買えない」

 

そんな怠惰な私のボヤキに、 この春から一人暮らしを始めた彼女は深く同意してくれた。

 

「魚……。鯖缶しか食べてない」

 

そんな彼女の言葉に、私も激しく頷いた。

 

お菓子を一食にしてしまう彼女と、炭水化物を好む私。

バイトが上手な彼女と、あんまり活力のない私。

ヒイヒイ言いつつも何でもこなす彼女と、サッサとことを済ませその後死ぬ私。

 

違う部分ばかりの私達。

それでも説明出来る部分ではない小さな一つ一つが、多分、似ているのだと思う。

そしてこれがきっと、一番大事なとこなのだ。

 

 

他愛もない話の合間に運ばれてきた海鮮丼。

ウニと、サーモン。それから、彼女が勧めてくれたネギトロ。

その三種類を、私はにんまりと口にした。

 

 

もう既に何度も言っているが、私の舌は鈍い。海鮮丼のレベルなんて分からないし、ウニだって磯臭くても全く問題ない。何でも美味しい。

加えて海鮮丼なんてあんまり頼まないから、これが安いのか高いのか、相場も分からない。

 

でもそんなことは関係なくて。

友達がここを紹介してくれて、目の前でにこにこと魚を頬張り、「幸せ」を共有出来ている。

多分この事実が私の美味しいを形成しているのだろう。

 

友達はいつだって、私に舌で感じない美味しさを与えてくれるのだ。

 

「友達みーんなここに連れて来たい」

 

そんな風に彼女は笑っていたっけな。

 

二人で海鮮丼を平らげてから店を出る。

定期的に連絡を取っていながら、先ほどとは別の意味で私達の口が止まることは無い。

そしてなんと恐ろしいことに、今日はこれから私の家でお泊り会なのだ。

 

そんなこんなで私達の時間はまだまだこれからだった。

明日へと続く。

 

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