食べ物と私

食べます。

明けない夜とお寿司のおもちゃ箱

夏休みの最後、二人の友達に会った。

 

この夏は比較的よく友達と遊んだ。出不精の私は大体こっちから友達を誘うことはない。なのに、大学を卒業してからもこうして集まれる。集まらせてくれる。貴重な人たちだ。嬉しい夏だった。

 

私と同じくこの四月に引っ越したという友達の部屋にお邪魔する。ロフト付きの、何となく安心感のある部屋だった。

 

夜、飲食店は閉まってしまうので私たちは近くにあった『かっぱ寿司』でお寿司を頼んだ。三人前の、一番安い詰め合わせ。

中には子供騙しみたいなネタもあって、やけに楽しそうなお寿司だと思った。友達の白ネズミも、いい仕事をしている。

 

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一貫一貫、するすると箸を進めながら私達はまた、沢山の話をした。

 

私達三人は一年前も、とある理由でよく集まっていた。全員、同じ未来に切羽詰まっていたのだ。

 

見通しもあまり明るくなくて、よく分からなくて、何も見えなくて、不安で、不安で。

 

逃れるように、ずっと口を動かした。

ハンバーグやポテトの前で、今日と同じように沢山話をした。同じ話を何度も何度も、繰り返し。

 

一年が経って、未来も変わり、私達の生き方もそれぞれ別になってしまった。

それでも私達は変わっていなかった。食べるものが変わっただけ、相変わらず忘れるように口を動かした。

三人が三人とも窮地に立っている。それはずっとそうなのだ。

 

絶望を語り、推しを語った。最近の話、将来の話になり、そして愛の話になった。

 

曰く、生きる上で支え合える対等な関係が欲しいのだと。

性行為なしでも成り立つ、損得なんて考えられないほど大切に出来る人、そして同じ程の熱量で大事にしてくれる人が欲しいのだと。

 

「愛し愛されたいね」なんて誰かが言って、残りの二人も頷いた。

お腹は酷くいっぱいだったけど、多分、私達は飢えていた。

 

自分の全てを投げ打てるほどの人と出会って、その人も同じように全てを捧げたりしてくれたのなら。

少しは私達の空腹も解消されるのだろうか。

満腹感を得ることが、いつか叶うのだろうか。

 

……いや、どうだろうな。

 

やっぱり何もよく分からなくて、深夜、曖昧な時間に私達は笑う。

今も、いつだって私達は目の前の問題で精一杯だった。抱え切れずにいるのだ。

 

お寿司の残骸を片付けて、テーブルを開けた。

今日が終わって、明日が来て、何もかもが日常に帰ってしまっても、私達の夜は終わらない。

ずっと。ずっと。

 

そんな虚しさを誤魔化すように、私達は次の獲物、ドーナツに手を伸ばすのだった。