食べ物と私

食べます。

遠い実家と栗だらけご飯

朝、チャイムで目を覚ます。そう言えば今日は実家から荷物が届くのだった。

 

「重いですよ」と言ってくれた宅配便のお兄さんの言葉通り、受け取ったダンボールは小さいながら、ずっしりと重い。

寝ぼけまなこで中身を確認。

 

クッキー、林檎、ポテトチップスにピーマン、ONE PIECE の99巻、海苔、大学のアルバム。

 

一貫性のない玉手箱。

その最奥から出てきた、もち米、そして栗。

しかもご丁寧に既に剥かれている。

 

私が一人暮らしを始めてから、この時期になると実家から栗ご飯セットが送られてくるようになった。

私が栗ご飯を特別好いているというわけではない。何なら実家で食べた記憶は薄い。

 

しかし、それでも母は毎年律儀にこのセットを送ってくるのだ。

 

夕刻になり、もち米の入ったジップロックに張り付けられた付箋を確認する。

こうして分量も毎回書いてくれている気がする。至れり尽くせりだ。

 

炊飯釜に、もち米と普通の米を一対一。

洗った後は付箋通りに、出汁とみりん、酒……はやっぱりまだ買ってなかったから保留で、小さじ一杯の塩。水を2合の目盛りまで注ぐ。

 

そして主役、たくさんの栗。

 

酸化を防ぐためなのか何なのか分からないが、ジップロックの中で水に漬けられている。

 

剝かれているのは本当にありがたい。殻付きで送られてきたら栗ご飯どころか、おそらく腐らせてしまうだろう。

筋取りが面倒で先延ばしにしているうちに、駄目になってしまったスナップエンドウが脳裏によぎる。基本的に怠惰な人間なのだ、私は。

 

正直、米に対してちょっと多すぎるんじゃないか?と思うような量の栗だったが、残していても仕方がない。全て炊飯釜に入れてしまう。

腐らせてしまうより、栗だらけごはんを食べる方が100倍いい。

 

待っている間にほかの料理を作っていると、炊飯器の煙からはいつもと少し違う香り。

ほっとするような、雑穀の香りだ。

 

ぴー、といいう電子音に急かされるように蓋を開ける。熱と秋の香りが、一気にキッチンへ立ち込めた。

 

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諸々のおかずもそろえ、いざ一口。

野菜から食べたほうが血糖値が……なんて言うが、待てるわけがないのだ。

 

ほっくりとした栗が出汁の旨味と一緒に口の中に広がる。秋の味だ。

もち米も相まって、めちゃくちゃ水分を持っていかれる。

 

栗もお米も、農家である祖母と祖父が作ったもの。

遠い地で、地元の味だった。

地元が好き、安心する、なんて気持ちが強いわけではないけれど、何となく優しい気持ちになった。

 

それにしても、さすがに栗の量が多かったのか、お茶碗一杯でかなりお腹がいっぱいになってしまった。

久々にはち切れそう、なんて表現が頭に浮かんだ。びっくりだ。栗ご飯の腹持ちは侮れない。

 

少しずつ味噌汁を啜りながら、冷凍する時はいつもより小分けにしようと密かに決意するのだった。