食べ物と私

食べます。

期待と諦め、一人の朝

酷く眠い朝。どうやら昨日までの観光の疲れが取れていないようだ。

それでも行かなければいけない。私は大人なので。

 

独立洗面台などない我が家。顔を洗おうとキッチンに立つ。

つるつるする床に、嫌な予感。

案の定、何が焼かれたのか分からない、ただ茶色の油を残したフライパンが私を待っていた。

 

昨夜、久々に会った同居人。

飲もう、と誘われたのが一回、しつこく抱きしめてきたのが一回、嘔吐の音で一回。

泥のように眠りたかったのに、そう言えば三回も私は起こされたのだった。

 

ピンク色に荒れた手でフライパンを洗う。

期待するだけ無駄なのだ。何もかも。

この世には自分の世話すら一人で出来ない人間だっている。

かくいう私だって私の世話で精一杯なのだ。でも、自分の世話だけは出来ている。

 

信じられるのは自分だけだと、心底思う。

その自分にすら、期待など微塵も出来ないが。

 

綺麗になったフライパンを火にかけ、新鮮なオリーブオイルを回し入れる。

温かくなったそこに、なんだか久しぶりの卵を、ひとつ。

食パンにはマーガリンとチーズをまとってもらい、トースターへ。

そう言えば妹が来ていたから、コンビニでペットボトルのコーヒーも買ってたっけ。

 

少し深い皿に焼き上がったパンを乗せる。

ちょうどいい、一人分の朝食。私だけの朝食。

 

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どこか安心するような、いつもの味だ。マジックソルトが思いのほか香ってくる。

 

幾度となく朝食を作ったと思う。私と、もう一人分。

苦痛じゃなかった。別に楽しくもなかったけど。

 

なんだか随分、枯れてしまったような気がする。こじれてしまったような。

人間と関わって生きていく上で、期待するのも考え物だが、諦めすぎるのもきっと良くないはずなのだ。

それでも諦観がすでに板についてしまった。きっとこの時点で私は。

 

食べ終えて、お皿をそのままに、しばしパソコンに向かう。

「やろうと思ってたのに、いっつも先にやっちゃうんだよ」

そんな風に言われたこともあったが、私が放置したお皿が勝手に片付いていたことなど、今までで一度もないのだ。

 

そう言えば昨日起こされた時、寝ぼけている私に、今度久しぶりに私と飲みたい、と、同居人は言ってきた。

何か話があるのだろう。大体察しはつく。

さしずめ私が妹といる間、会ってきたらしい友達に触発されたというところか。

 

何はともあれ、アルコールに正気を預けないと話ができない意気地なしが、私は大嫌いだ。

それが大事な話であればあるほど。

 

朝起きたら届いていた一件のメッセージに、適当なスタンプを返す。

澱が溜まる感覚。外は雨。暗い暗い朝だった。