お腹が空いた帰路。ちょっと寄り道して帰ろう、なんて悪い囁きに乗ってみる。
向かうはコンビニ。くるくると狭い店内を歩きつつ、常温のスナックコーナーで足を止めた。
いつもは世間の波に乗じてチキンを頼むところだが、無性にこちら、80円とチキンの半額であるコロッケを食べたい気分だった。
それも、歩きながら。
大学の頃、特にすることもなかったため、仲の良かった子、一人と一緒に街を回ったことがあった。
少し暑いくらいの、いい天気だったと思う。
その子はいわゆる箱入り娘というやつで、私と比べてやったことない、食べたことがないことが多かった。
例えば焼肉だったり、お泊りだったり。
何かといえば嫌の許可が必要で、だからこそ当日には目をきらきらとさせて少し戸惑いつつ、様々なことに手を出していくような好奇心旺盛の、そんな子だった。
そして食べ歩きも、その子がしたことのないことの一つだった。
どういう経緯だったかは忘れたが、私の家にその子が泊まりに来ることになったのだ。
とは言え、当時、今もだが、うちには遊べるようなものは何もない。
暇を持て余し、少し話合った結果、近所を散策しようという謎の選択に至ったのだ。
今思えば、自転車を嫌い、徒歩で通学するような子だったから、思いの外この提案は彼女にとって楽しいものだったのかもしれない。
私も私で引きこもりを極めていたため、近所とはいえ知らない場所が多く、それなりに楽しかった記憶がある。
そして行き先も決めぬまま、二人で歩く事数分、お肉屋さんが見えてきた。
そこにお肉屋さんがあることくらいは私もさすがに知っていたのだが、なにしろ古めかしい店構えだ。何かを買ったことはない。
しかし、その時は一人ではなく、隣に彼女がいた。
そして店頭には、買ってくださいと言わんばかりの美味しそうなコロッケが置いたあったのだ。
「これ、食べようよ」
そう誘ったのは、私の僅かな空腹と、彼女の瞳に映る好奇心、そして今なら越えられそうな敷居を感じ取ったからだと思う。
結局私たちは、コロッケ二つを抱えながら田舎道の散策を続けたのだった。
目の前の、あの時のお肉屋さんのコロッケよりは幾分か薄い、それでも温かいコロッケを見やる。
色々あって、私が彼女の純朴さに目を眩ませてしまったこともあり、大学を卒業してから彼女とは疎遠になってしまった。
もしかしたら、もう二度と対面することはないのかもしれない。
それでもあのほのかに暑い日、古いお店のコロッケのことはきっと忘れないのだろう。
一口、さくりとコロッケを齧る。
よく練られたじゃがいもの懐かしい味に、明るい日差しの中、また私は息を吐くのだった。