「今日は雪だけど大丈夫?」
そんな天気予報と化した母のラインを確認しつつ、眠気まなこでカーテンを開ける。そして、仰天。
ふわふわの白、白、白。
屋根どころか電線にまで。
ここ数年見ないくらいには雪が積もっていた。
朝に用事のある私は呆然として外を見る。もはや若干引いていた。
しかも雪はまだ降り続いている。それも、結構なボタン雪が。
仕方なしに年甲斐もなく、ポンポンのついたニット帽を被り、外に出る。
アスファルトはそうでもないかと思ったが、とんでもない。車の通った跡はじゃりじゃりと、危なっかしく汚れた雪が固まっている。
転ばないよう、慎重に歩みを進めつつ、高校の頃、雪が積もった朝を思い出す。
今も昔も、私の住む地域で雪が積もることはそこそこ稀なのだが、その日も今日と同じくらい、雪が積もっていた。
そして運の悪いことに、その日は登校日で、家の車はスタッドレスに交換していなかった。
自転車では当然無理で、駅まで片道一時間弱の道を雪の中、歩いて行くことになったのだ。
まぁまぁの絶望感だったことを覚えている。
あの時は何度か滑りかけたが、今日はあの頃と違って革靴ではなくスニーカーだったからか、上手く目的地まで辿り着けた。
用事を済ませ、決めていた店に入る。
朝食はまだ食べていなかった。今日は目的地の近くにあった、スターバックスで食べようと決めていたのだ。
この雪の中、フラペチーノはさすがに憚られたため、季節限定のホットのドリンクと美味しそうなラップを注文する。
生チョコ味の甘い飲み物だから、食べ物はしょっぱいものが良かったのだ。
足場の悪い中、普段は人がいっぱいのここも今日は空いていた。
一人席。少し高い椅子に腰掛け、そっとマスクを外す。
まずはラップから。
名前の通り、アボカドの味が強い。プリプリとしたエビの食感も感じられるし、その他にも野菜がぎっしり詰まっていた。……何の野菜かは、ちょっと分からなかったけれど。
美味しいことだけが確かだった。
合間に本命のドリンクに口をつける。
生クリームと牛乳、そして優しく溶けたチョコレートの味が口内に広がる。ほっとするような、朝というよりは夜に飲みたい味かもしれない。
店内のガラス窓から外を見る。
人々が行き交う中、雪はまだしんしんと降り続いていた。
やれ雪だるまや雪合戦とはしゃいでいたあの頃は既に遠く、それでも雪は積もっていく。
何だか少し寂しいような、置いて行かれているような気持ちだ。
でも実際は、私が雪を追い抜いていってしまったのだろう。
ドリンクの暖かさに絆されつつ、少し止んだら家に帰ろうと、寒い午前中を凌ぐのだった。