予定が押してしまい、かなりお腹を空かせた午後4時。
変な時間になってしまったが、だからこそこれ以上は持たないとぐーぐー鳴る胃を鎮めるため、帰り道にコンビニへ足を運ぶ。
晩御飯の前に何か軽く食べようとおにぎりのコーナーを覗こうとして、足を止める。
目に入ったのは特設されたお菓子コーナー。
そういえば、今日はバレンタインだった。
昨日、深夜のゲームログインで特典を貰ったことを思い出す。
ゲームがなければ気付くこともなく、流していたかもしれない行事。
それでもバレンタインと知った途端に舌が甘いものを欲し始める。それもただの甘さでなく、チョコレートのご指名つきで。
欲求に従うまま適当に甘いパンを見繕い、レジへと向かう。
バレンタインはハロウィン同様、学生の間は少し特別な行事だった。
友達同士での交換はもちろん、片思いなんて甘酸っぱい経験もしていたから、密かに密かに期待を込めたり。
好きな人は部活の人だった。
私はその部のマネージャーと、かなりベタな展開だったが、自然にお菓子を渡すことができるのは有り難かった。
とはいえ、その人だけ特別仕様にすると一瞬でバレてしまうから、分からないように、例えば一番大きくできたクッキーを選んでみたり、トッピングの星の色を少し変えてみたり。
到底届かない思い。届けようとも思わなかった思い。
もしかしたら将来に悔いが残るかもしれないと、当時は焦る気持ちもあったが、今はただのいい思い出だ。
我ながら高校生を全力で謳歌していた時期だと思う。
家につき、買ってきたパンを見る。
あの頃の青春はもう見る影もないが、チョコレートはいつでも甘い。
いかにも甘そうで、ガツンとチョコが香りそうなパン。
大きな口を開けてかぶりつくと、パリパリとコーティングされたチョコが剥がれ、中からは白と黒、二つのクリームが飛び出してくる。
食べ応え抜群。軽食にしてはややじゃじゃ馬なパン。
むしゃむしゃと窒息しそうな勢いでパンを貪りつつ、今日という日を考える。
バレンタインがチョコレート会社の策略だ、くだらないと言う人もいるが、そうだとしてもそれに乗じてしまえばいいと私は思う。
楽しむことに理由はいらないが、楽しむために理由が必要なのであれば、いくらでもでっち上げればいいのだ。
浮かれて、妬んで、色めきたって、残念がって。
そういう変な心地が、きっと大人になって懐かしくなる。
色々なことを思い出すきっかけになる。
朝までラッピングをしていた数年前の自分を思い出しながら、私は一緒に買ったコーヒーをそっと飲み干した。