今日は祖母の家に行くという話だった。
帰省している時のお決まりの行事でもある。
車に揺られること30分。
迎えてくれる飼い犬と触れ合いつつ、古い造りの家に上がる。
祖母の家は日本の夏が想起させられるような、涼し気な家だ。
農家ということもあり、料理好きな祖母。
席に着いた途端色々なものを勧めてくれるが、お腹がいっぱいだったのでやんわりと断る。
それでも色々提案してくるので、それなら食べられるかもしれない、と祖母が口にしたイチゴという単語についに頷いた。
キラキラと輝く、いびつな、それでも大粒のイチゴ。
イチゴは作っていなかったはずなので、もしかしたら私のために買ってきてくれたのかもしれなかった。
口をいっぱいにしながら、一口で齧り付く。
ちょうど口に収まるサイズ。噛んだ途端じゅわりと果実の甘さが広がる。
酸っぱさはちょっと。かなり甘い子たちだった。
そんなイチゴを口に放り込んでいると、母と祖母の会話がどんどん怪しくなっていく。
そして些細な、しかし決定的な一言で火花は散った。
母は普段見ないケータイに目を落とし、喋らなくなってしまう。
私はなんとなく祖母と話していたが、結局空気の重さに耐えきれず、そろそろとスマホに手を伸ばす。
この場を取り繕うのが私の役目でなければならない理由は、どこにも無かったと思う。
祖母は寂しかったのだろうか、少しいじけたように眠ってしまう。
最終的にいつものようなお見送りもなく、私たちは祖母の家を後にした。
帰りの車の中、母は私に謝ってきた。
どうやら祖母の態度を申し訳なく感じているらしい。
それからは最近の祖母の言動について、思うところをつらつらと私に話し始める。
それを聞きながら、ぼんやりと母も娘なのだな、と思った。
母の愚痴には心当たりがあった。
それは全部、私や妹が母に抱いている不満だったから。
お母さんも同じ事やってるじゃん、なんてことは言わずに、ただ母の愚痴を聞いていく。
年をとると自分中心になってしまう、と母が呟く。
みんなそうだね、みんな。と私は返したけれど。
片っぽが意地を張ったら、片っぽも意地を張って。
スマホを一心に見つめている母の横顔は、はっきりと祖母との対話を諦めていた。
きっと祖母から歩み寄ってくれることを、どこかで期待しているのだろう。
その姿は母に甘えている子ども、そのままだ。
数十年後、いや、そんなに経たなくとも、私と母もきっとそんな関係になるんだと思う。
母も祖母も寂しがり屋で、几帳面で、少しだけ人に飢えているから。
手に少し香るイチゴ。
また会う時は、仲直りしてくれていればいいと思う。