食べ物と私

食べます。

罪滅ぼしのパウンドケーキ

今日は根本的に駄目な日だった。

何だか久しぶりだと思う。

 

起きていても頭がはっきりしない。

画面を眺めるばかりだからか、目もしょぼしょぼしてしまう。

そんな中、検索してしまうのは将来に関わるキーワードばかり。

つまりは前進していないように感じる日。取り残されたように感じる日。

 

とりあえず何かしようと、少し前に買ってきた本で勉強してみるが、ますます自分の現状が浮き彫りになってしまい、もう一人の自分の声だけが大きくなっていく。

 

何もしてないの、やばいんじゃない?

みんなはしっかりしてるよね、貴方は?

 

漫画やイラストでいえば、きっとぐるぐるに目を回している状態だろう。

 

しなきゃいけないことが漠然と襲ってきて、結局何もできやしない。

焦燥感ばかりが先に立ち、自分以外の全ての人が偉く、充実しているように思えてしまう。

冷静に考えるとそうでもないのかもしれないが、自分の駄目さ加減が際立ち、より一層死にたくなってしまう。

 

「何もしていない」なんて生きている上ではあり得ないのかもしれない。

でも、一方で少し立ち止まる度、私は自分を酷く嫌ってしまうのだ。

 

そんな日の終わり掛け、午後7時。

キッチンに立って作り始めたのはパウンドケーキ。

 

さっきまで「就活」やら「募集」、「年収」などとたくさんの憂鬱を喋っていた画面を黙らせて、どこかの誰かが作ったパウンドケーキのレシピを表示させる。

そしてその割には分量も測らず、適当に材料を放り込んでいく。

冷蔵庫の奥、眠っていたバッカスも溶かして使ってしまおう。

 

馬鹿の量の砂糖を生地に投入しつつ、足が冷たいな、とぼんやり感じる。

別にパウンドケーキが食べたかったわけではない。

誰かにあげようと思っている訳でもないし、誰かが家に来る予定もない。

ただ衝動のままに、気づいたらオーブンの予熱も終わっている。

 

おかしな話だが、もしかしたら今日何かをしたという証が欲しかったのかもしれないと思う。

 

黒く染まった生地をゆっくりオーブンに入れ、自分はさっさと風呂に入ってしまう。

駄目な日、いけない日。

推しにも逃げ切れなかった私の、最後の砦のパウンドケーキなのだ。

焦げたとしても、生焼けだったとしても、今の私には丁度良く感じた。

 

しかし、案外ことは上手く運ぶこともあるようで。

風呂あがり、覗いたオーブンレンジの中にはふっくら綺麗に膨らんだ茶色のパウンドケーキが私を待ち受けていた。

 

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粗熱を取った後、適当に切り分けて、サクサクの一番端をパクリと食べてみる。

想定外に中はふわふわ、甘すぎず、ちょうどよく優しい味。

きっと冷めたらぎっしり重くなるのだろうが、それでも満点だった。

 

ラップをかけ、冷蔵庫にパウンドケーキをしまう。

明日の朝、明日の朝には、このパウンドケーキを素直に喜べたらいいと思う。