食べ物と私

食べます。

待ちぼうけとサンショウウオ

空き時間に会いたいからと、水族館に誘われた。

相手はいつもの元同居人である。

 

しかし、肝心のその人が一時間の遅刻。

すぐに水族館に向かうと言われたが、そもそも元同居人がここにきたのは水族館に行くためではなかったはず。

あくまでも空き時間に会う予定だったのだから。

 

そろそろ切れてしまう年間パスポートを見せ、中に入ると、薄暗い中元同居人の姿があった。

ただ、目が泳いでいる。

気になることがあれば全くもって集中できないのがこの人の悪いところだ。

 

遅れてごめん、水族館行きたくて

そんなこと言ったって、やらなきゃいけないこと、あるんじゃないの?

 

へんてこな会話を繰り広げた後、少し待ってて、やってくると言い残し、同じように年間パスポート保持者の彼は水族館から退場してしまった。

 

仕方なしに一人で水族館を巡る。

と言っても、もう見慣れた風景だ。

私はケチだから、年間パスポートを買ったら何度でも、本当に何度でも通う。もったいないような気がしてしまうから。

 

光の当たる水槽に来た時、お腹が減っていることに気がつく。

ふと売店を見てみると、何時ぞやかTwitterでバズっていた可愛らしいパンが再販されている。

 

水族館が割高なことは分かっているが、ここでケチケチすると本当に惨めな気持ちになりそうなので欲に任せることにする。

 

どの子を食べようかとメニューを眺める。

と、目の端に見えたのはパンではなく、肉まん。

お腹の空き具合から考えて、この子に即決だ。

 

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ちょっと分かりずらいが、かなり可愛らしい見た目。オオサンショウウオだ。

頭から袋に突っ込まれていたので、しっぽからパクリ。

普通の肉まんより生地が分厚くて、パンという感じが強い。でも中の具はしっかり肉まんで、コンビニのものよりも食べ応えを感じる。

 

オオサンショウウオがいなくなって、一人、ノイズキャンセリング付きのヘッドホンをつけて、ノートとペンを握ってベンチに座る。

水族館に来て何やってるんだ、と周りも思っていたと思う。私も思っていた。

 

結局、元同居人は三時間の遅刻。

今までは「仕方ないよ」と大目に見ていたのだが、ここぞとばかりに文句を言ってやる。

全くもって嫌な女だと思う。

 

でも元同居人がこんなに遅れなかったら、きっと私はオオサンショウウオにかぶりつくこともなかったし、ヤケクソでソフトクリームを追加して食べることもなかったのだ。

 

まぁ、つまるところ私はそんなに怒っているわけじゃなかった。出費は痛いけれど。

 

何か奢ってよ、と遠慮を忘れた私はまだ食い意地を張ってみる。

元同居人は仕方ないな、と言いつつラーメンを奢ってくれたのだった。