食べ物と私

食べます。

一人勝ちのケンタッキー

家に帰って鞄を放り投げる。

その勢いのままクッションに寝転んで、マスクをむしり取った。

 

勝った。勝ちだ、私の勝ちだ。

 

何かに勝利したわけでもないのに、そんな気持ちが昂っていくのは何故だろうか。

一人の部屋で達成感に浸る。

ともかく、私は激動の一日を乗り越えたのだった。

 

出かける前はあんなに嫌だったのに、済んでしまえばもうこちらのものである。

それどころか友達に沢山の労りの言葉を貰い、どちらかというとご機嫌だった。

 

一つの用事が済んだとてやることは山のようにあるのだが、今日だけは考えなくていいと自分に言い聞かせる。

大概のことは明日でも間に合う。

 

気が大きくなっているまま、ここぞとばかりに最近サボっていた掃除機をかける。

今までずっと体が重くて出来なかったのが嘘のようにすらすらと埃を取り払っていく。

軽くハイの状態になっていた。

 

最後に姿見の埃を払って、一息つく。

ハイになっている原因。

もちろん今日に勝利したこともそうなのだが、大きな理由がもう一つあるのだ。

 

部屋を綺麗にした勢いで風呂に入り、自身の汚れも落とす。

それからスマホを手にして、Uber eatsのアプリを開く。

今日の地獄が決まった時から、ずっと決めていたこと。

 

しばらくして玄関先に届けられた、ガツンと強いスパイスの香り。

頼んだのはケンタッキー。

ずっと食べたかったケンタッキーである。

 

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相変わらず写真が下手だと思う。

でもこれを撮った時の私に、映りを気にする余裕は無かったのだ。

 

まだ夜には早い、夕方と言える時間帯にビールを開けてしまう。

ウェットティッシュの準備もオーケー。

 

早速、と脂が乗っている部位を選択。

三角形の、多分腰のところ。名前は知らない。

ガブリと噛み付けば、旨味を纏ったしっとりとした衣にジューシーな肉汁が溢れ出す。

ケンタッキーにしかなし得ない技だ。

 

ちょっとしつこくなってきた脂はビールの炭酸でぐびぐびと流し込む。至高の時だ。

 

少しも残すまいと、手を汚しながら食べ尽くす。

しかし4ピースは厳しく、結局ポテトだけは食べてしまい、1ピースは冷凍庫にしまうことにする。

これでも結構食べた方だ。

 

捕食後の放心状態の中、綺麗になった部屋をぼんやりと見る。

今回ケンタッキーを頼んだのは、頼むことが出来たのは、お金が浮いたからだ。

誰かと会っていた分のお金が浮いたからだ。

 

明日も早い。これ以上飲むことはできないが、しっかりと確認する。

 

私は、やはり私一人で楽しむことができるのだ。

 

ぐったりと座椅子にもたれ掛かりつつ、くたびれたリュックに目を向ける。

準備をしておかなければいけない。私のために。