食べ物と私

食べます。

決戦の日にいつものトースト

また来てしまった、ちょっと逃れられない日。

無駄に早く起きて、鏡の前に立つ。

こういう日のメイクは欠かせない。

 

まずは下地を塗って、ファンデーション。

アイシャドウに、ちょっと強めのアイライン。

いつもはここで終わりなのに、鎧を強固にするためにビューラーに手を伸ばす。それから、黒いマスカラ。

私が出来る一番強いメイクだった。

 

顔が変わったからといって戦闘力が変わるわけではない。というか、そもそも顔ですらそんなに変わっていない。

でもメイクをするしないとでは心持ちが全く違う。

今日は正直言って処刑台に等しいようなところに立つのだが、そのためにもメイクは絶対的に必要だった。

 

マスクをするようになってからつけていなかった口紅も塗ってみようと考えながら、鏡から離れて朝食へと移る。

 

カロリー増し増しなものを食べてやる、という気持ち。ある意味暴力的だ。

まず食パンにバターを塗って、卵を落とす。それからマヨネーズで囲い、チーズを乗せる。

見た目はいつものパンとさほど変わらないが、ちょっと強いパンの出来上がり。

私と同じである。

 

f:id:zenryoku_shohi:20220527063849j:image

 

サクサクとした食感。

ちょっと熱すぎるから少しだけ冷ました。

いつもの味、胡椒がきいていて美味しい。

バターやらマヨネーズやらでいつもよりまろやかな感じのするパン。

ここは私とは違うところだった。

 

食べ終わったあとは仕上げに『紅蓮の弓矢』を聴く。

私は死にゆく兵士ではなくてリヴァイだし、私の目の前に立つのはじゃがいもなんかじゃなくて巨人達なのだと言い聞かせて。

攻撃力を増していかないと、本当に今日は死んでしまうのだ。

 

とはいえ、今日の用事はひとつだけ。

この二時間を乗り切って仕舞えばもう私は自由の身。

嘘。明日と明後日もちょっと一日予定が詰まっている。

 

耳にAirPodsを突っ込んだまま洗い物を終える。

この耳にだって、イヤーカフが二つとピアスがついている。ちなみにイヤーカフのうち一つは推しとお揃いである。

 

本当なら足の爪も推しの色に塗ってしまいたかったのだが、昨日はその気力もなくて断念してしまった。

でも、気にしてばかりもいられない。

私は今から戦いに行くのだから。

 

AirPodsをしまって代わりに口紅を塗る。

それからマスクで隠し、自転車と家の鍵を持つ。

現場に着くにはまだ早い時間だ。それこそ、レッドブルでも買えてしまうような時間帯。

 

もう一人、一緒に地獄を見る予定の子は今頃どうしているんだろうと思いつつ、その子だけが味方だと言い聞かせながら私は玄関の重い扉を開くのだった。