食べ物と私

食べます。

アクエリアスと。

久しぶりに人前で泣いた。

彼氏以外の前だと五、六年ぶりだろうか。

 

単純にびっくりした。

人前で声が震え始めて、やばいと思った時にはもう遅い感じがあった。

公の場で泣くことはどうにか免れたものの、終わった後は決壊した感じ。

 

とりあえずトイレに行って抑えきれない声を押し殺した。

何だか酷く惨めだった。というか、困惑していた。

悲しいというよりはびっくりしただけで、でも止めようとすればするほど涙が、嗚咽が止まらない。

 

トイレの個室に誰か入ってきて、頑張って手で口を塞いだ。

何も知らない人だったら嘆きのマートルに間違われても仕方ない状況。

本当になんでこんなことになっているのか、もうよく分からなかった。

 

少し落ち着いたところで個室から出て鏡の前に立つ。

抑えると赤くなることは分かっていたがどうしようもなかったため、泣いたことが分かるような目をしていた。

 

バレたら嫌だな、どうやって戻ろうか。とりあえず呼吸をして落ち着かなければ。

冷静な頭とは違って、時折溢れる涙とひっくひっくと引き攣る声は止まらない。最早生理現象の類だった。

 

さて本当にどうしよう、と悩んでいるところに足音が聞こえる。

そこにいたのは私の大好きな女の子。

 

「大丈夫?あれは酷いわ」

なんて抱きしめてくれるもんだから、せっかく収まりかけていた涙が出てきてしまう。

 

何か言いたいのに嗚咽で言えないままでいる私に、彼女は続けて「何も言わなくていいよ」とまた優しい声をかけてくれる。

どう振る舞えばいいか分からなかったが、もう一杯一杯になってしまう。

 

その後も一人、また一人と女の子達が来てくれて、私のことを励ましてくれた。慰めてくれた。

何だか嬉しくて、申し訳なくて、でもやっぱり嬉しかった。

 

その後、まだ業務は続いていたけど、「たばこに付き合ってよ」「太陽浴びよう」と、女の子は私をコンビニまで連れ出し、アクエリアスを奢ってくれた。

 

タバコを吸う彼女の隣で、程よく冷えたアクエリアスを口にする。

スポーツドリンクは普段あまり飲まないけど、何だか凄く美味しく思えた。

 

非日常のそのまた非日常を生きている感じだった。

ちょっと絆された感じ。弛緩した感じ。

凄く酷い目にあったけど、とりあえずはもうその時間は終わったし、あと数ヶ月は経験しなくていいことなのだ。

そう考えると、なんだかとてもほっとした。

 

「塩分取らないと」

 

メンソールのタバコを吸いながら、そう言って女の子は笑った。