ほぼ最終日。
妹はまだ何か食べる気で、ファミレスへと向かう。
どんより曇った空の下、酷い蒸し暑さが私たちを襲う。
ここ数日食べに食べているわけだし、正直お腹はそこまで空いていなかった。
けれど、健康体なのか何なのか、妹はわくわくしながら隣を歩いている。
やがて見えてくる、オレンジ色。
妹が来てみたかったらしいファミレス。
ロイヤルホストだった。
少し列ができていたので、順番を待って席に着く。
煌びやかなメニューに目を滑らせながら、ちょっと昔のことを考える。
ロイヤルホストは私が大学生の頃、本当にたまに訪れていたファミレスだ。
というのも、大学の最寄りのファミレスがロイヤルホスト、そして友達がそこで働いていたのだ。
もちろん値段は知っているから、しょっちゅうは行けない。
ただ季節限定のパフェが出た時は友達が教えてくれるのだ。
そこでドリンクバーだけ安くしてもらい、優雅に友達とたべっていた。
大学を卒業してからはもちろん皆で集まることも、季節限定のパフェを教えてくれる友達も居なくなったから、必然的に足は遠のいていたのだけれど。
妹は元々決めていたらしく、私も似たような、あの頃より少し見栄を張った値段のランチを頼む。
ワインまでつけて、見るからに美味しそう。
切り分けられているステーキにさらにナイフを入れ、一口大に切り分ける。
口に入れれば、肉肉しいのに柔らかい、明らかに高そうな味がする。
こんなにあからさまな牛肉なんて久々に食べるな、とぼんやり思った。
昼からデキャンタでワインを頼んで、肉を食べて。
大学の頃には思いもしなかった贅沢だけど、あの頃の私が今の私を知ったらどうだろうなとも考える。
あんまり嬉しくはないだろう。
あの頃もすでに、という感じではあったが、今はもっと廃れてしまったような感じがする。
あの頃より多くのものを手放して、諦めて、その割に得られたものはそこまでないような感覚。
悲しくなる。
私の人生はどこを切り取ってもそうであるような気がして。
動物の肉を食べながら、生まれなかったら良かったのにと。静かにそう思う。
ちなみに妹は私より一回り大きなステーキを完食したあと、ドリアも食べ切っていた。
ファミレスでメインを二品食べ切る人を私は初めて見たかもしれない。
明日からは実家に戻る。
実家。両親だって一年前に本当の意味で諦めたもののひとつだ。
あまり体力は使いたくないけれど、きっとそんなわけにもいかないだろう。
肉をもう一切れ口に運ぶ。
私も何かに食べられてしまえたら。